ある真菌の感染が米国全土に広がりつつあるとして、米疾病対策センター(CDC)の研究グループが警鐘を鳴らしている。Candida auris(カンジダ・アウリス)と呼ばれるこの真菌はカンジダ属の新興菌種であり、感染すると生命が脅かされる可能性があるという。研究グループは、2013年にカンジダ・アウリスの初の感染者が報告されて以降、全米で急激に感染者が増加していることを、「Annals of Internal Medicine」3月21日号で報告した。
論文の筆頭著者でCDC真菌感染症部門メディカルオフィサーのMeghan Lyman氏によると、カンジダ・アウリスは触れただけで簡単に感染する。また、一度感染すると除去することは難しく、何カ月間にもわたって生存し続けるという。この真菌は、健康な人には無害だが、何らかの疾患が原因で免疫機能が低下している人が感染すると、重篤で生命を脅かす感染症を引き起こす可能性がある。
米国ではカンジダ・アウリス感染症が年々増加しており、2019年には前年比44%の増加だったのが、2021年には95%の増加となっている。また、血液や心臓、脳に菌が感染するなどした侵襲性カンジダ・アウリス感染症の患者では、3人中1人以上が死亡している。さらに、カンジダ・アウリス感染症の報告があった州の数が増加しているだけでなく(2016年には4州、2021年には28州とコロンビア特別区)、同菌が定着した州では感染者も増加しているとLyman氏は指摘している。本論文では、2021年にカンジダ・アウリスの保菌スクリーニングを受けて陽性だった健康な人の数が209%もの増加となったことが記されており、こうした人々がカンジダ・アウリスの感染を他者に広げている可能性も示唆された。
さらに懸念すべき問題として、カンジダ・アウリスが抗真菌薬に対して耐性を獲得しつつあることをLyman氏は挙げている。カンジダ・アウリスは当初より、抗真菌薬の主要な3クラスのうちの2つに対して耐性を示していた。しかし現在、カンジダ・アウリスは3つ目のカテゴリーの薬で、新しい半合成化合物であるキャンディン系抗真菌薬に対しても耐性を獲得しつつあることが今回、明らかになったのだ。
キャンディン系抗真菌薬に耐性を示すカンジダ・アウリス感染症の2021年の患者数は、過去2年間と比べて約3倍に増加している。Lyman氏は、「キャンディン系抗真菌薬は、カンジダ・アウリス感染症やその他のカンジダによる侵襲性感染症に対する第一選択薬だ。米国での抗真菌薬耐性カンジダ・アウリス感染症の患者数は今のところ少ないが、増加傾向にあることは分かっている。こうした患者に対する治療選択肢は特に限られているため、この点は明らかに懸念すべき問題だ」と話す。
Lyman氏によると、米国でカンジダ・アウリス感染症の初の症例が報告されたのは2013年であったが、その後2016年までは報告がなかった。米国では複数の異なるカンジダ・アウリス株が検出されており、いずれも異なるタイミングで海外から入ってきたと考えられている。一説には気候変動がカンジダ・アウリスの増加に影響しているともいわれており、Lyman氏も、「カンジダ・アウリスは実際、他の属の真菌よりもやや高い気温で増えやすい」と指摘している。また、抗真菌薬の使い過ぎによって他の属の真菌が死滅する中で、耐性を獲得したカンジダ・アウリスが増える要因となった可能性を唱える説もあるという。ただ同氏は、「近年の米国における感染拡大には、医療現場での不十分な感染対策が関係している」との考えを示している。
一方、米マウントサイナイ・サウス・ナッソーの感染症部門長のAaron Glatt氏は、「医師たちは今、カンジダ・アウリスが定着しているが感染はしていない患者に対する処置の判断に苦慮している」と話す。そして、「カンジダ・アウリスが定着しているだけの場合、治療は推奨されない。その代わりに適切な感染対策が推奨される。不適切な抗真菌薬の使用によってさらに薬剤耐性を獲得させるわけにはいかないからだ」と説明する。ただ、こうした対策は、患者を医療からつまはじきにしてしまう可能性がある。それでも、Lyman氏は、「適切な感染対策と新しい抗真菌薬の使用とともに、早期にカンジダ・アウリスの保菌者を見つけ出すことは、その後の感染拡大を防ぐ最善の方法である」と主張している。
[2023年3月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら