早期段階の乳がんを検出するためのウェアラブル超音波デバイスの開発に関する成果を、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のCanan Dagdeviren氏らが、「Science Advances」に7月28日報告した。将来的には、このデバイスにより、自宅にいながら乳がんの初期兆候をモニタリングできるようになる可能性があるという。
現在、乳房超音波検査は、一部の女性での乳がん検出に使われている。例えば、マンモグラフィ検診で疑わしい所見が見つかった場合、それが腫瘍なのか嚢胞なのかを確認するために超音波検査が行われることがある。また、乳腺組織が非常に密で(デンスブレスト)、マンモグラフィだけでは腫瘍を確認しにくい女性では、超音波検査が追加されることもある。しかし、いずれの場合でも、女性は検査を受けるために医療機関に赴く必要がある上に、検査の質も検査者の経験と技量に左右されるのが実情だとDagdeviren氏は指摘する。
さらに、乳がん検診はすでに40代から定期的に行われているものの、検診後から次の検診までの間に「インターバルがん」が発生することもある。このような状況を踏まえて同氏らは、「ブラジャーの上から装着できる、可塑性と柔軟性を兼ね備えた超音波デバイスを作れないかと考えた」と言う。
Dagdeviren氏らが考案したウェアラブル超音波デバイスは、ハニカム(蜂の巣)状の六角形の開口部を設けて柔軟性を持たせることで、乳房にフィットするように設計されており、3Dプリンターで作られる。デバイスは、超音波スキャナーを皮膚に接触させるための開口部が設けられたブラジャーに磁石で取り付けられる。超音波スキャナーは小さなトラッカーに内蔵されており、その中で6つの異なる位置に移動できるため、乳房全体をスキャンすることができる。スキャナーは回転させることもできるため、さまざまな角度から超音波画像を撮影することも可能だ。操作に特別な専門知識も必要ないという。
Dagdeviren氏らが、乳腺嚢胞の既往歴がある71歳の女性の協力を得て、このデバイスの性能をテストした結果、わずか3mmの嚢胞を検出できることが確認された。また、このデバイスから、従来の超音波検査で得られる画像と同程度の解像度で、深さ8cmまでの組織を描出できることも示された。
今回の研究報告について、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のSheng Xu氏は、「素晴らしい研究だ」と評価する。Xu氏の研究室でも、以前よりウェアラブル超音波デバイスの開発に取り組んでいるという。同氏は、「このデバイスは、超音波画像診断の手順を標準化し、従来の超音波診断の悩みであった検査者への依存をできる限り減らすのに役立つ可能性がある」との見方を示す。
Dagdeviren氏は、この乳房超音波デバイスが、乳がんリスクの高い女性に使用できる可能性があるほか、従来の乳がんの画像診断へのアクセスが限られている低所得国の女性に新たな選択肢を提供することにもなるとの見通しを示す。
ただし、米食品医薬品局(FDA)からこのウェアラブルデバイスに対する承認を得るためには、少なくとも1,000人の女性を対象にデバイスの性能を検証する研究を実施するなど、まだやるべきことは山積みだ。また、今回の試験では、超音波画像を見るために、スキャナーを画像処理センターの超音波装置に接続する必要があった。Dagdeviren氏は、「これは、明らかに家庭での使用に向かない」と話す。研究グループは、デバイスをスマートフォンのようなデバイスと組み合わせ、データをクラウド経由で医療提供者に送信することを考えているという。
[2023年7月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら