腹部を中心とした内臓の周りに脂肪が多くついている中高年は、後年、アルツハイマー病を発症するリスクの高いことが、新たな研究で示唆された。研究では、表面からは見えないこの脂肪(内臓脂肪)が脳の変化に関係しており、その変化は、アルツハイマー病の最初期の症状である記憶障害が生じる最長で15年前に現れ始めることが示されたという。米ワシントン大学医学部マリンクロット放射線医学研究所のMahsa Dolatshahi氏らによるこの研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2023、11月26~30日、米シカゴ)で発表された。
米アルツハイマー協会によると、米国でのアルツハイマー病患者数は600万人以上に上るが、この数は2050年までに1300万人近くに達すると見込まれている。Dolatshahi氏らは、認知機能が正常な40〜60歳の54人(BMIの平均値32)を対象に、頭部MRIで測定した脳の異なる領域の容積、PET検査で評価したアミロイドβの蓄積およびタウタンパク質のもつれと、BMI、肥満、インスリン抵抗性、および腹部の脂肪組織(皮下脂肪と内臓脂肪)との関連を調べた。アミロイドβの蓄積とタウタンパク質のもつれは、脳細胞間のコミュニケーションを阻害すると考えられている。
その結果、内臓脂肪と皮下脂肪の面積比(V/S比)の値が高いほど、脳の楔前部における、アミロイドβを検出するためのPETトレーサーの取り込みが増加する傾向が認められた。楔前部は、アルツハイマー病の進行初期にこの病気に特有の脳の病理学的変化であるアミロイドβの蓄積が生じる部位であることが知られている。V/S比とアミロイドβ蓄積との関連は、女性よりも男性で強かった。さらに、内臓脂肪の量が増加すると、脳内炎症が増加することも明らかになった。
内臓脂肪と脳内炎症との関連についてDolatshahi氏は、「いくつかの経路の関与が示唆されている。皮下脂肪が保護作用を持つ可能性があるのとは対照的に、内臓脂肪から分泌される炎症性物質は、アルツハイマー病における主要なメカニズムの一つである脳内炎症を引き起こしているのかもしれない」と述べている。
Dolatshahi氏は、「これまでの研究で、BMIと脳の萎縮、あるいは認知症リスクの上昇との関連は報告されていたが、認知機能が正常な人において、特定の種類の脂肪とアルツハイマー病の発症に関わるタンパク質とを関連付けた研究はなかった」と強調する。同氏はさらに、「同様の研究でも、特にアルツハイマー病でのアミロイドβの病理学的変化に果たす内臓脂肪と皮下脂肪の役割の違いについて、中年期早期の人を対象に調査したものは存在しない」と付け加えている。
共同研究者である、マリンクロット放射線医学研究所の神経磁気共鳴画像診断部長であるCyrus Raji氏は、「これらの知見は、医師がアルツハイマー病を発症するリスクがある人を診断し、治療するのに役立つかもしれない」との見方を示す。同氏は、「この研究は、内臓脂肪がアルツハイマー病の発症リスクを高め得る重要なメカニズムを明らかにするものだ。研究では、このような脳の変化が概ね50歳という早い段階で起こることが示された。50歳という年齢は、アルツハイマー病の初期症状である記憶障害が認められる年齢よりも最大で15年も早い」と述べている。その上で同氏は、医師が患者の内臓脂肪量を減らすことで将来の脳内炎症を抑え、認知症やアルツハイマー病の発症を予防できる可能性に言及している。
[2023年11月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら