空間ナビゲーション機能の障害はアルツハイマー病の初期兆候か

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/04/02

 

 バーチャル空間でのナビゲーションが困難な中高年は、将来、アルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)を発症するリスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)認知神経科学研究所のCoco Newton氏らによるこの研究の詳細は、「Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association」に2月29日掲載された。

 嗅内皮質はADで最初に神経変性が現れる皮質領域であり、その変性は嗅内皮質のグリッド細胞の機能不全と関連することが知られている。グリッド細胞は、経路統合(path integration;PI)能力をベースにした空間行動に関与している。PI能力とはナビゲーション機能の一形態で、自分の運動を手がかりに環境での位置を推定する能力のことである。

 これらのことを踏まえてNewton氏らは、ADリスクを有する成人に最初に現れる行動の変化がPIの障害ではないかと仮説を立てた。そして、遺伝子や家族歴、生活習慣などの要因からADの発症リスクが高いと考えられる43歳から66歳の中高年100人を対象に、没入感のある仮想現実(VR)空間でのPI能力を観察し、この仮説の検討を行った。対象者の中にADの標準的な症状が現れている人はいなかった。対象者は専用のヘッドセットを装着して、ナビゲーション機能をもとにVR空間の中に三角形状に配置された3つのコーンを順に回って歩くテストを受けた。

 その結果、ADリスクの種類にかかわりなく、リスクが高めの人では、ADの症状がなく、他の認知機能テストのスコアが良くても、VRテストの成績が悪い傾向が認められた。また、この傾向は女性よりも男性の方が強いことも示された。

 研究グループは、「われわれが得た結果は、空間ナビゲーション機能の障害が、ADの何らかの症状が明らかになる何年も前から現れ始めていることを示唆するものだ」と述べている。またNewton氏は、「ADが無症状の状態から段階的に進行して症状が現れるようになる際の最初期の診断のためのシグナルが、このようなナビゲーション機能の変化である可能性を示唆する結果だ」との見方を示す。

 さらにNewton氏は、本研究で認められた性差に関心を示し、「男女間でのADの発症のしやすさの違いに関してさらなる研究で検討する必要があること、さらにADの診断および新しい治療法の開発の双方において性別を考慮することの重要性を強調する結果だ」とUCLのニュースリリースで述べている。

 論文の上席著者であるUCL認知神経科学研究所のDennis Chan氏は、「この研究で使用されたVRテストは、将来的にはADリスクを評価する標準的な方法になるかもしれない」とし、このような検査が「ADの臨床的発症の発見を向上させ、迅速に治療を行うために重要だ」と強調している。

 これに対し、この研究に資金を提供した米アルツハイマー病協会のRichard Oakley氏は、「この革新的な技術を診断検査として使用するのは時期尚早だ」との見方を示す。なお、Oakley氏自身はこの研究には関与していない。同氏は、ナビゲーション機能の問題はADで最初に生じる変化の一つと考えられていることに言及し、この研究結果が「ADの初期兆候としてのナビゲーション能力の役割に関する新たなエビデンスとなるもの」だと指摘する。その上で、「この技術を発展させるためにはさらなる研究が必要だが、今後の成果により、どのようにAD特有の変化を早期に発見して認知症患者を助ける方法がもたらされることになるのかを見るのが楽しみだ」と期待を示している。

[2024年2月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら