いつの日か、手のひらサイズの血液検査デバイスで、わずか1時間程度で結果を得られるようになる可能性を示唆する研究結果が報告された。この携帯型デバイスは手のひらに収まる大きさで、音波を使って少量の全血サンプルからバイオマーカーを分離・測定するもので、検査の全プロセスに必要な時間は70分足らずだという。米コロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のWyatt Shields氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」10月16日号に掲載された。Shields氏は、「われわれは使いやすく、さまざまな環境で導入でき、短時間で診断に関する有用な情報を提供する技術を開発した」と話している。
このような少量の血液を用いた血液検査に関する報告は、今回が初めてではない。血液検査会社のTheranos社は「1滴の血液で数百種類のバイオマーカーを測定できる」との触れ込みで事業を展開していたが、2015年に虚偽であることが発覚。同社は2018年に解散し、創業者のElizabeth Holmes氏は禁固11年超の有罪判決を受け、現在も服役中である。
Shields氏らによると、今回報告された新たなデバイスは、システマティックな実験と査読を受けた研究をベースとしたものであり、Theranos社が主張した検査とは仕組みが異なるという。研究論文の筆頭著者でコロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のCooper Thome氏は、「彼らが主張したことを今すぐに実現するのは不可能だが、多くの研究者が似たようなことが可能になるのを望んでいる。今回の研究は、その目標に向けた1歩となるかもしれない。ただし、誰でもアクセスできる科学的根拠に裏付けられている」と話している。
現在使われている血液検査は、針や注射器で1本またはそれ以上のバイアルに血液を採取する必要があり、検査機関から結果が出るまで数時間から数日かかる。新型コロナウイルスへの感染や妊娠の有無を調べる迅速検査では、血中あるいは尿中のバイオマーカーの有無に基づき、迅速に「イエス」か「ノー」の情報が提供される。しかし、これらの検査ではバイオマーカーの量を測定することはできない。
今回報告された新たな検査技術は、血液サンプルの中のさまざまなバイオマーカーを捉えるように設計することができる「機能的負の音響コントラスト粒子(functional negative acoustic contrast particles;fNACPs)」を用いたもの。fNACPsは、特定のバイオマーカーを全血から直接捕まえるための「目印」を持っている。採取された血液サンプルをデバイス内でfNACPsと混ぜ合わせると、音波の作用によってターゲットとなるバイオマーカーを捕縛したfNACPsが採取チャンバーにとどまり、他の血液成分は洗い流される。fNACPsが捕縛した各バイオマーカーは蛍光タグで標識され、ポータブル蛍光計とフローサイトメーターでその量が測定されるという仕組みだ。Thome氏は、「われわれの検査は、基本的には極めて少量の液体から音波を使って迅速にバイオマーカーを分離している。これは血中のバイオマーカーを測定する全く新しい方法だ」と大学のニュースリリースで述べている。
このデバイスが実用化されるまでにはさらなる研究が必要であるが、ベッドサイドや移動診療所で指先穿刺によって採取された血液から重要な医療情報がただちに提供される日が来ることをShields氏らは思い描いている。Shields氏は、「急速に広がるウイルス感染症が出現した場合や、急性呼吸器疾患や炎症性疾患の場合、実際に何が起こっているのかを素早く正確に測定できるようにしておくことは重要だ」と言う。研究グループはまた、「この検査は、ブースター接種の必要性や、特定のアレルギーやがんに関連するタンパク質保有の有無を判定するのにも役立つ可能性がある」と述べている。
[2024年10月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら