1998年以来、米食品医薬品局(FDA)により承認されたがん治療薬の43%は、がん細胞のゲノムバイオマーカーのプロファイリングを用いて患者を選択する、精密医療(プレシジョン・メディシン)に基づく治療法である。しかし、米国の民族的および人種的マイノリティーに属する人は、このようながん領域の精密医療(プレシジョン・オンコロジー)の恩恵を十分に受けておらず、がん治療へのアクセスにおける格差が依然として存在していることが、新たな研究により明らかになった。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSK)のKanika Arora氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に1月9日掲載された。
これまでの研究で、がん患者では、DNAに基づく祖先の系統(以下、遺伝的系統)の違いによりがんに関連する遺伝子変異の発生率に違いがあることが明らかにされている。しかし、遺伝的系統が異なる患者が、経時的に見て、標準的なプレシジョン・オンコロジーに基づく治療法の恩恵を同等に受けているかどうかはいまだ明確になっていない。
この点を明らかにするために、Arora氏らは、2014年1月から2022年12月までの間に、プレシジョン・オンコロジーのためにがんゲノムプロファイリング検査(MSK-IMPACT)を受けた固形がん患者5万9,433人のデータを後ろ向きに解析した。データには、66種類の固形がんに関する最大505種類のがん関連遺伝子の配列情報が含まれていた。また、1998年1月から2023年12月までにFDAが承認したがん治療薬のラベルに記載されている、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)などの分子バイオマーカーを有する患者の割合を遺伝的系統グループごとに算出した。その上で、それらのバイオマーカーに基づく治療薬への適合率が、異なる遺伝的系統グループ間で均等であるかどうかを評価した。
対象者の遺伝的系統は、ヨーロッパ系(非アシュケナージ系ユダヤ人60.1%、アシュケナージ系ユダヤ人15.6%)、アフリカ系5%、東アジア系5.7%、南アジア系1.9%、ネイティブアメリカン0.4%、複数の遺伝的系統を持つ人11.3%で構成されていた。論文の上席著者であるMSKのDebyani Chakravarty氏は、「これらのデータセットに含まれるサンプルの80%以上は、主に、自身をヨーロッパ系の白人と称する患者に由来する。これは、歴史的に臨床試験に参加する可能性が最も高く、また参加することができたのが、これらの患者だったからだ。このことは、バイオマーカーの発見とそれに基づく薬の開発が、圧倒的にヨーロッパ系の患者のデータをベースに進められてきたことを意味する」と述べている。
2012年から2023年にかけて、FDAが承認したプレシジョン・オンコロジーに基づく治療法への患者の適合率は経時的に上昇していたものの、その増加傾向は遺伝的系統によって異なり、ヨーロッパ系で9.1倍、東アジア系で8.5倍、南アジア系で6.8倍、アフリカ系で6倍と推定された。Arora氏は、「プレシジョン・オンコロジーに基づく治療法が実施されるようになった当初は、遺伝的系統グループによる大きな差は見られなかったが、承認される薬剤が増えるにつれて差が広がっていった」と話す。同氏はさらに、「2019年以降、アフリカ系と見られる患者は、他の遺伝的系統を持つ人と比較して、FDA承認のプレシジョン・オンコロジーに基づく治療法の対象となることが著しく少ないことが判明した」と付言している。
研究グループは、「プレシジョン・オンコロジーに基づく治療法の進歩が全ての人に恩恵をもたらすよう、今後の臨床試験では、より多様な患者集団を登録すべきだ」と提言している。
[2025年1月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら