抗アミロイド療法は発症後では遅すぎる?/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2014/02/03

 

 抗アミロイドβ(Aβ)モノクローナル抗体バピヌズマブは、アルツハイマー病(AD)関連のバイオマーカーを改善するが、臨床アウトカムの改善はもたらさないことが、米国・バトラー病院のStephen Salloway氏らの検討で示された。バピヌズマブは、軽度~中等度AD患者を対象とした第II相試験において、プラセボに比べてPET画像上のアミロイドを減少させ、脳脊髄液(CSF)中のリン酸化タウを低下させたことから、標的への到達および神経変性の減弱効果が示唆されていた。NEJM誌2014年1月23日号掲載の報告。

APOEε4対立遺伝子の有無別の2つのプラセボ対照無作為化試験で評価
 研究グループは、軽度~中等度AD患者に対するバピヌズマブの有用性の評価を目的とする2つの二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施した。1つはアポリポ蛋白E(APOE)ε4対立遺伝子のキャリアを対象に、米国の170施設の参加の下で2007年12月~2012年4月に行われ、もう1つはAPOEε4対立遺伝子非キャリアを対象に、米国、カナダ、ドイツ、オーストリアの218施設が参加して2007年12月~2012年6月に進められた。

 対象は、年齢50~88歳、ADの診断基準を満たし、MRI上でAD所見を認め、軽度~中等度認知機能低下がみられ、虚血の徴候が低い患者とした。キャリアの試験ではバピヌズマブ0.5mg/kg(13週ごと6回=78週、静脈内投与)またはプラセボを投与する群に、非キャリアの試験ではバピヌズマブ 0.5mg/kg、1.0mg/kgまたはプラセボを投与する群に、患者を無作為に割り付けた。

 主要評価項目は、アルツハイマー病評価スケールの認知機能評価11項目(ADAS-cog11、0~70点、点数が高いほど認知機能が良好)および認知症機能障害尺度(DAD、0~100点、点数が高いほど身体機能障害は低い)のスコアの変化とした。副次評価項目は、Pittsburgh compound Bを用いたPET画像上のアミロイド所見(PIB-PET)およびCSF中のリン酸化タウ濃度とした。

抗アミロイド療法は発症後では遅すぎる?
 キャリア1,090例(バピヌズマブ群:658例、プラセボ群:432例)および非キャリア1,114例(0.5mg群:314例、1.0mg群307例、プラセボ群493例)が有効性解析の対象となった。

 主要評価項目は有意な群間差を認めなかった。APOEε4対立遺伝子キャリア試験ではベースラインから78週までのADAS-cog11スコアおよびDADスコアの差(バピヌズマブ群-プラセボ群)は、それぞれ-0.2(p=0.80)および-1.2(p=0.34)であり、非キャリア試験ではバピヌズマブ0.5mg/kg群がそれぞれ-0.3(p=0.64)、2.8(p=0.07)、1.0mg/kg群は0.4(p=0.62)、0.9(p=0.55)であった。

 安全性に関する重要所見として、バピヌズマブ群でアミロイド関連画像異常としての浮腫がみられ、用量およびAPOEε4対立遺伝子の数が多くなるに従って頻度が高くなった。非キャリア試験で当初設定されていた2.0mg/kg群は、これが原因で早期中止となった。

 キャリアではPIB-PETおよびCSF中のリン酸化タウ濃度が、バピヌズマブ群で有意に改善した(それぞれp=0.004、p=0.005)が、非キャリアでは1.0mg群のリン酸化タウを除き有意な改善は認めなかった(0.5mg群:p=0.19、p=0.98、1.0mg群:p=0.47、p=0.009)。

 著者は、「バピヌズマブは、APOEε4対立遺伝子キャリアではバイオマーカーを改善させたが、臨床アウトカムの改善はもたらさなかった」とまとめ、「アミロイドの蓄積は症状発現のかなり以前に始まっており、抗アミロイド療法は認知症が発症してから開始したのでは遅すぎて、臨床経過には影響を及ぼさない可能性がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)

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コメンテーター : 岡村 毅( おかむら つよし ) 氏

東京都健康長寿医療センター

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