日本において2005~2012年に、居合わせた市民(バイスタンダー)による胸骨圧迫およびAEDを用いた除細動の実施率は上昇し、神経学的後遺症のない生存の増大と関連していることが、帝京大学救急医学講座の中原慎二氏らによる全国データの調査分析の結果、明らかにされた。日本の院外心停止(OHCA)後の神経学的後遺症のない生存については、増大が報告されていたが、入院前処置との関連(バイスタンダー介入と生存における増大など)についてはこれまで十分な検討はされていなかった。JAMA誌2015年7月21日号掲載の報告。
消防庁収集のOHCAデータを分析
本検討は、2005年1月より消防庁が収集を開始した全国OHCAレジストリ(All-Japan Utstein Registry)のデータを分析したものである。レジストリには、OHCAを発症し救急隊により病院へ搬送された全患者が登録され、患者の特性、入院前介入、転帰が記録されている。
研究グループは同データから2005年1月~2012年の間に、心原性心停止と推測されバイスタンダーによるOHCAに対する介入が確認された患者16万7,912例について分析評価を行った。バイスタンダーによる入院前介入は、公共のAEDを用いた除細動と胸骨圧迫などであった。
主要評価項目は、OHCAから1ヵ月後または退院時点における神経学的後遺症のない生存で、グラスゴー・ピッツバーグ脳機能カテゴリスコア1または2と、全身機能カテゴリスコア1または2と定義した。介入と神経学的後遺症のない生存との関連も評価した。
後遺症のない生存、バイスタンダーのみの除細動は救急隊のみ除細動の2.24倍
心原性心停止と推測されバイスタンダー介入が確認されたOHCA数は、2005年の1万7,882件(10万人当たり14.0件、95%信頼区間[CI]:13.8~14.2件)から、2012年は2万3,797件(同18.7件、18.4~18.9件)に増加し、神経学的後遺症のない生存は、587例(年齢補正後の割合:3.3%、95%CI:3.0~3.5%)から1,710例(同:8.2%、7.8~8.6%)に増加していた。
バイスタンダー胸骨圧迫の実施率は38.6%から50.9%へ、バイスタンダーのみの除細動は0.1%から2.3%に増え、バイスタンダー+救急隊の両者による除細動は0.1%から1.4%に増えた。一方で救急隊のみの除細動は26.6%から23.5%に減少していた。
バイスタンダー胸骨圧迫の実施では未実施と比較して、神経学的後遺症のない生存の増大が認められた(8.4%[6,594生存/7万8,592例] vs.4.1%[3,595生存/8万8,720例]、オッズ比[OR]:1.52、95%CI:1.45~1.60)。
また、救急隊のみの除細動(15.0%[6,445生存/4万2,916例])と比較して、バイスタンダーのみの除細動(40.7%[931生存/2,287例])のほうが神経学的後遺症のない生存の増大と関連していた(OR:2.24、95%CI:1.93~2.61)。同様の増大の関連はバイスタンダー+救急隊による除細動(30.5%[444生存/1,456例])でもみられた(OR:1.50、95%CI:1.31~1.71)。一方で、除細動未実施(2.0%[2,369生存/12万653例])では低下が認められた(OR:0.43、95%CI:0.39~0.48)。
(武藤まき:医療ライター)