院内心停止蘇生後患者に対する低体温療法の施行は、通常ケアと比較して生存退院率および良好な神経学的予後について、いずれも低い可能性が、米国・Saint Luke's Mid America Heart InstituteのPaul S. Chan氏らによるコホート研究の結果、示唆された。低体温療法は、院外および院内の心停止蘇生後患者に対して施行されるが、院内心停止患者に関する無作為化試験は行われておらず、有効性に関するデータは限定的である。JAMA誌2016年10月4日号掲載の報告。
全米355病院2万6,183例の院内心停止後蘇生例について適合傾向スコア分析
コホート試験は、2002年3月1日~2014年12月31日に全米Get With the Guidelines-Resuscitationレジストリに登録された、院内心停止後に蘇生に成功した患者2万6,183例を対象に行われた。患者の入院先は全米355病院、低体温治療の有無は問わず特定され、2015年2月4日時点まで追跡を受けた。
主要アウトカムは生存退院率。副次アウトカムは、良好な神経学的予後で、脳機能カテゴリー(Cerebral Performance Category)スコア1または2(重症の神経障害なし)で定義した。比較は、適合傾向スコア分析を用い、すべての心停止および非ショック性(心静止[asystole]、無脈性電気活動[PEA])またはショック性(心室細動[VF]、無脈性心室頻拍[VT])に分けての評価を行った。
非施行例と比べて、生存退院率、良好な神経学的予後例の割合は低い
院内心停止患者全体2万6,183例のうち、1,568例(6.0%)が低体温療法を受けていた。このうち1,524例について(平均年齢61.6[SD 16.2]歳、男性58.5%)、傾向スコアで適合した低体温療法を受けなかった3,714例(62.2[17.5]歳、57.1%)と比較検討した。
補正後、低体温療法は生存退院率との関連が低く(27.4 vs.29.2%/相対リスク[RR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.80~0.97/リスク差:-3.6%、95%CI:-6.3~-0.9、p=0.01)、同関連について非ショック性、ショック性で違いはみられなかった(交互作用p=0.74)。生存退院率は非ショック性症例では22.2 vs.24.5%(RR:0.87、95%CI:0.76~0.99/リスク差:-3.2%、95%CI:-6.2~-0.3)、ショック性症例では41.3 vs.44.1%(RR:0.90、0.77~1.05/リスク差:-4.6%、-10.9~1.7)であった。
また、低体温療法は、良好な神経学的予後との関連も低かった。神経学的予後が良好であったのは、低体温療法群17.0%(246/1,443例) vs.非低体温療法群20.5%(725/3,529例)であった(RR:0.79、95%CI:0.69~0.90/リスク差:-4.4%、95%CI:-6.8~-2.0、p<0.001)。非ショック性、ショック性で違いがみられなかった(交互作用p=0.88)。
著者は、「今回観察された所見は、無作為化試験実施の根拠となるものであった」と述べている。