冠動脈疾患が疑われる患者への心臓CT検査は、冠動脈造影の施行率を抑制して診断率を改善するとともに、入院期間を短縮し、放射線被曝量や長期的なイベントを増加させないため、冠動脈造影の安全なゲートキーパーとなる可能性があることが、ドイツ・シャリテベルリン医科大学のMarc Dewey氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2016年10月24日号に掲載された。従来、閉塞性冠動脈疾患の最終診断は冠動脈造影で行われる。同時にステント留置が可能、CABGの計画が立てられるといった利点があるが、診断率が低いとのエビデンスがあり、過剰施行の可能性が指摘されている。CTは、正確で非侵襲的な選択肢とされるが、非定型的な胸痛のため冠動脈疾患が疑われ、冠動脈造影の適応となる患者におけるリスクおよび利点は知られていないという。
329例を対象とする単施設無作為化試験
研究グループは、冠動脈疾患の中等度の可能性があり、冠動脈造影の適応とされる患者において、CTと侵襲的冠動脈造影の有用性を比較する単施設の前向き無作為化試験を行った(ドイツ研究振興協会[DFG]の助成による)。
非定型的狭心症または胸痛がみられ、冠動脈疾患の疑いで臨床的に冠動脈造影の適応とされた患者329例が対象となった。CT群に167例(平均年齢60.4歳[SD 11.3]、女性88例)、冠動脈造影群には162例(同60.4歳[11.4]、78例)が割り付けられた。
主要評価項目は、最後の手技から48時間以内のCTまたは冠動脈造影関連の重度の合併症(死亡、心筋梗塞、入院期間を24時間以上延長する他の合併症)の発現であった。
重度合併症はまれ、軽度合併症はより少ない
CTにより冠動脈造影の必要性は14%(24/167例、95%信頼区間[CI]:9~20)に低下した。冠動脈造影による閉塞性冠動脈疾患の診断率は、CT群で冠動脈造影を要した患者の75%(18/24例、95%CI:53~90)であり、冠動脈造影群の15%(25/162例、95%CI:10~22)に比べ有意に優れた(p<0.001)。
主要評価項目の発生率は全体で0.3%とまれであり、両群でほぼ同等であった(CT群:1例[心筋梗塞] vs.冠動脈造影群:0例、p=1.00)。一方、手技関連の軽度合併症(穿刺部の血腫・後出血、徐脈、梗塞を伴わない狭心症など)の発生率は、CT群が3.6%と冠動脈造影群の10.5%よりも良好であった(p=0.014)。
入院期間中央値は、CT群が30.0時間(IQR:3.5~77.3)と冠動脈造影群の52.9時間(IQR:49.5~76.4)よりも22.9時間短かった(p<0.001)。また、放射線被曝量は、CT群が5.0mSv(IQR:4.2~8.7)、冠動脈造影群は6.4mSv(IQR:3.4~10.7)であり、両群に差はなかった(p=0.45)。
フォローアップ期間中央値3.3年における重度の心血管有害事象の発生率は、CT群が4.2%(7/167例)、冠動脈造影群は3.7%(6/162例)であった(p=0.86)。内訳は、CT群では心筋梗塞が1例、不安定狭心症が2例、再血行再建/初回血行再建術が6例に、冠動脈造影群では心臓死が1例、脳卒中が1例、再血行再建/初回血行再建術が5例に認められた。
受容性に関する調査では、CTが好ましいと答えた患者が79%(219/278例)であったのに対し、冠動脈造影が好ましいと答えた患者は7%(20/278例)であった(p<0.001)。CTが好ましいと答えた患者は、CT群で多かった(87 vs.70%、p<0.001)。
著者は、「本試験は大学病院で行われたため、実臨床とはCTの施行能が異なる可能性がある。主要評価項目の発生数が予想よりも少なく、結果として検出力が低い試験となった」としている。
【訂正のお知らせ】
本文内の表記を、一部訂正いたしました(2016年11月8日)。
(医学ライター 菅野 守)