勤務時間が柔軟でない研修プログラムは、医師の育成に悪影響を及ぼすのではないかという懸念があるが、研修医が患者の治療や教育に費やす時間の割合は、柔軟な勤務時間の研修プログラムと標準的な勤務時間の研修プログラムとで差はないことが示された。また、前者の柔軟な研修プログラムを受けた研修医は、後者の研修医と比較して教育経験にあまり満足していなかったが、プログラムの責任者は満足していたことも示された。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のSanjay V. Desai氏らが、米国の内科研修プログラムを検証した全米クラスター無作為化試験「iCOMPARE研究」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2018年3月20日号掲載の報告。
勤務期間が標準または柔軟な研修プログラムを比較
iCOMPARE研究は、内科研修プログラムにおける患者の安全性、研修医(インターンとレジデント)の教育およびインターンの睡眠と覚醒について、米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)が2011年に定めた勤務時間方針と、柔軟性のある勤務時間方針とで比較するもので、本論では、研修医の教育経験ならびにプログラム責任者や指導にあたる医師(ファカルティ)の認識について報告された。
研究グループは、米国の63の内科研修プログラムを、2011年にACGMEが規定した標準勤務時間方針によって管理する標準群と、勤務時間や病棟交代勤務間の義務的な休みに制限を設けない柔軟な勤務時間方針によって管理する柔軟群に、無作為に割り付けた。
インターン(卒後研修1年目)の活動の観察、研修医(インターンとレジデント)およびファカルティの調査、およびインターンの試験(American College of Physicians In-Training Examination)スコアなどから教育経験を評価した。
患者の治療や教育に費やした時間に差はないが、満足度には差
インターンが患者を直接診療した時間や訓練に費やした平均時間、臨床で要求されることと訓練との間の適正なバランスに関する研修医の認識(主要評価項目:研修医の訓練に対する満足度、回答率91%)、あるいは研修医の仕事量が彼らの能力を超えているかどうかに関するプログラム責任者およびファカルティの評価(主要評価項目:訓練に対するファカルティの満足度、回答率90%)において、柔軟群と標準群とで有意差は確認されなかった。
他のインターンの調査(回答率49%)では、柔軟群のほうが、教育の質(オッズ比[OR]:1.67、95%信頼区間[CI]:1.02~2.73)や、幸福感(well-being)(OR:2.47、95%CI:1.67~3.65)など、研修の複数の側面に対する不満を報告する傾向にあることが示された。
一方で柔軟群のプログラム責任者は、臨床実習の時間など複数の教育課程に対する不満の報告が少ない傾向にあった(回答率:98%、OR:0.13、95%CI:0.03~0.49)。試験の平均スコア(正答率)は柔軟群68.9%、標準群69.4%で、群間差は-0.43(95%CI:-2.38~1.52、非劣性のp=0.06)と非劣性マージン(2ポイント)を満たさなかった。
著者は研究の限界として、研修医の回答率が45%にとどまったこと、実際に勤務した時間を評価していないこと、研修医およびプログラム責任者はプログラムの割り付けを知っていたことなどを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)