タバコの値上げは、所得上位層20%よりも所得下位層20%に対して、健康や財政面の利益を提供しており、タバコ税増税は非感染性疾患および貧困に関する持続可能な開発目標(sustainable development goals:SDGs)を支持し、疾病に対する生活資金的な保障を提供する。カナダ・セント・マイケルズ病院のSujata Mishra氏らが、タバコの50%値上げによる影響を検証した研究結果を報告した。タバコ税増税は、2030年までに非感染性疾患の死亡率を3分の1まで低下させるというSDGs達成に重要であるが、タバコ税増税による健康や財政面への影響に関する研究はほとんどなかった。BMJ誌2018年4月11日号掲載の報告。
13ヵ国の男性喫煙者5億人を対象に、タバコの値上げによる影響を評価
研究グループは、中所得13ヵ国の総計20億人のうち男性喫煙者5億人を対象に、所得分類ごとのタバコ価格の値上げによる健康、財政、税に関する利益を評価するコンパートメントモデルを開発した。
主要評価項目は、獲得生存年、回避可能医療費、高額医療支出を回避する男性数、貧困度、および所得分類ごとの追加税収とした。
タバコの50%値上げが約4億5,000万人の生存年数を延長、低所得層に有益
タバコ価格の50%値上げは、喫煙をやめることによる、13ヵ国の約4億5,000万人(うち約半数は中国)の生存年数の延長につながる可能性が示された。
タバコ価格の50%値上げによる生存年数延長者は、全13ヵ国において、所得下位層20%の男性が所得上位層20%の男性と比較して、6.7倍多いと予測された(1億5,500万人 vs.2,300万人)。所得下位層の喫煙者が禁煙によって得る平均獲得生存年は、所得上位層の5.1倍であった(1.46年 vs.0.23年)。回避可能な医療費1,570億ドル(1,130億ポンド、1,270億ユーロ)のうち、所得下位層が回避可能な医療費は所得上位層と比べて4.6倍に上ることが予測された(460億ドル vs.100億ドル)。
また、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジのない7ヵ国(インド、インドネシア、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、中国、メキシコ)における約1,550万人の男性が、高額医療支出の回避が可能と予測された。結果として、880万人(このうち半分は所得下位層)が、世界銀行が定義する極度の貧困状態以下に陥ることを回避すると予測された。この880万人の男性は、前述の7ヵ国における極度の貧困の中で生活する2.4%に相当していた。
追加税収は1,220億ドルで、そのうち所得上位層が納める金額は、受ける恩恵が少ないにもかかわらず、所得下位層の2倍に上ることが予測された。所得下位層は、31%が生存年数の延長を獲得し、29%が疾患ごとの医療費や高額医療支出を回避可能だが、追加税収の支払いは10%のみであることが予測された。
著者は研究の限界として、個々の喫煙者の行動に対するタバコ税値上げの長期的影響を検証したものではないこと、所得下位層の禁煙による実際の利益を過小評価している可能性などを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)