4つの固定用量の薬剤を含む配合剤(ポリピル)は、主要心血管イベントの予防に有効であり、服薬順守が良好で有害事象も少ないことが、イラン・Tehran University of Medical SciencesのGholamreza Roshandel氏らが行ったPolyIran試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年8月24日号に掲載された。固定用量配合剤による治療(ポリピル戦略)は、心血管疾患の負担軽減の取り組みとして、とくに低~中所得国(LMIC)で提唱されている。
追加効果をコホート内のクラスター無作為化試験で評価
本研究は、イラン北東部のゴレスタン州(若年死の33.9%が虚血性心疾患、14.0%が脳卒中の地域)で行われた大規模な前向きコホート研究内で実施されたクラスター無作為化試験である(Tehran University of Medical Sciencesなどの助成による)。
対象は、Golestan Cohort Study(GCS)に参加した40~75歳の集団であった。村落をクラスターとし、非薬物的な予防介入(最小ケア)に加えポリピルを1日1錠投与する群(ポリピル群)または最小ケアのみを行う群(最小ケア群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為割り付けは、英国のバーミンガム大学の統計学者が、イランの現地の研究チームとは独立に行った。
非薬物的な予防介入(健康な生活様式に関する教育研修[低塩・低糖・低脂肪の食事、運動、体重管理、タバコや麻薬の不使用])は、現場の医療チームが、3ヵ月時および6ヵ月時に、その後は6ヵ月ごとに行った。
ポリピルは2つの種類が用いられた。ポリピル1には、アスピリン81mg、アトルバスタチン20mg、ヒドロクロロチアジド12.5mg、エナラプリル5mgが含まれた。フォローアップ中に咳嗽が発現した患者は、エナラプリルの代わりにバルサルタン40mgを含有するポリプロ2に切り換えた。
主要アウトカムは、主要心血管イベント(急性冠症候群による入院、致死的心筋梗塞、突然死、心不全、冠動脈血行再建術、非致死的/致死的脳卒中)の発現とし、治療割り付け情報を知らされていないGCSフォローアップ・チームにより中央判定が行われた。
主要心血管イベントを34%抑制、NNTは34.5
2011年2月22日~2013年4月15日の期間に、6,838例が登録された。ポリピル群が3,421例(120クラスター)、最小ケア群は3,417例(116クラスター)であった。平均年齢はポリピル群が59.3歳、最小ケア群は59.7歳、女性はそれぞれ1,761例(51.5%)、1,679例(49.1%)であった。ポリピル群の服薬順守率中央値は80.5%(IQR:48.5~92.2)だった。
フォローアップ期間中に主要心血管イベントを発症したのは、ポリピル群が3,421例中202例(5.9%)と、最小ケア群の3,417例中301例(8.8%)に比べ有意に少なかった(補正後ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.55~0.80)。1件の主要心血管イベントを予防するのに要する治療必要数(NNT)は34.5(95%CI:25.9~56.1)であった。
ポリピル群の服薬順守が良好な集団に限定すると、主要心血管イベントのリスク低下は、最小ケア群と比較して、さらに改善され(HR:0.43、95%CI:0.33~0.55)、1件の主要心血管イベントの予防に要するNNTは20.7(95%CI:17.5~26.5)だった。
ポリピル群における主要心血管イベントの発症に関して、心血管疾患の既往歴のある集団(HR:0.61、95%CI:0.49~0.75)と既往歴のない集団(0.80、0.51~1.12)の間に、有意な交互作用は認められなかった(交互作用のp=0.19)。
有害事象の頻度は両群でほぼ同等であった。5年のフォローアップ期間中に頭蓋内出血が21件(ポリピル群10件、最小ケア群11件)認められた。医師によって確定診断された上部消化管出血は、ポリピル群で13件、最小ケア群で9件みられた。
結果を踏まえて著者は、「ポリピル戦略は、とくにLMICにおいて、心血管疾患の管理における有効な追加要素とみなされる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)