2018年8月に発生したコンゴ共和国におけるエボラウイルス病(EVD)の爆発的流行(outbreak)中に行われた治療において、MAb114とREGN-EB3はいずれも、ZMappに比べ死亡率が有意に低かったことが、同国Institut National de Recherche BiomedicaleのSabue Mulangu氏らが行ったPALM試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月27日号に掲載された。2018年8月、同国北キブ州とイトゥリ州において、同国で10回目のEVDの爆発的流行が発生し、2番目に大きな規模に達した。EVDの実験的な治療法がいくつか開発されており、最も有望な治療法に関する無作為化対照比較試験の実施が求められていた。
爆発的流行中に4薬を比較する無作為化試験
研究グループは、2018年8月のコンゴ共和国におけるEVDの爆発的流行中に、4つの治療薬を比較する無作為化試験を行った(米国国立アレルギー・感染症研究所[NIAID]などの助成による)。
対象は、年齢を問わず、RT-PCR法でエボラウイルス(EBOV)の核タンパク質RNAが陽性の患者であった。妊婦も含まれ、母親のEVDが確認されている場合は、生後7日以内の新生児も含まれた。
全例が標準治療を受け、ZMapp(3種類のモノクローナル抗体製剤、対照)、remdesivir(抗ウイルス薬)、MAb114(1種類のモノクローナル抗体製剤)、REGN-EB3(3種類のモノクローナル抗体製剤)のいずれかを静脈内投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。REGN-EB3群は、プロトコルの後期のバージョンで加えられたため、ZMapp群のうちREGN-EB3群の登録開始以降に登録された患者(ZMapp群サブグループ)と比較した。
主要エンドポイントは、28日の時点での死亡とした。
28日死亡率:MAb114(35.1%)vs.REGN-EB3(33.5%)vs.ZMapp(49.7%)
患者登録は、2018年11月20日に開始された。681例が登録された2019年8月9日の時点で、データ安全性監視委員会は499例のデータの中間解析を行った。その結果、死亡率に関して、MAb114群とREGN-EB3群は、ZMapp群とremdesivir群よりも優れたため、同委員会はZMapp群とremdesivir群への割付を終了するよう勧告を行った。
673例(平均年齢 28.8±17.6歳、女性 55.6%)が、今回の解析の対象となった。ZMapp群に169例、remdesivir群に175例、MAb114群に174例、REGN-EB3群には155例が割り付けられた。ZMappサブグループは154例だった。
28日死亡率は、MAb114群が35.1%(61/174例)と、ZMapp群の49.7%(84/169例)に比べ有意に低かった(群間差:-14.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-25.2~-1.7、p=0.007)。また、REGN-EB3群の28日死亡率は33.5%(52/155例)であり、ZMappサブグループの51.3%(79/154例)と比較して、有意に良好であった(-17.8ポイント、-28.9~-2.9、p=0.002)。remdesivir群とZMapp群の差は、3.4ポイント(-7.2~14.0)だった。
RT-PCR測定で最初の陰性結果が示されるまでの期間は、MAb114群(中央値16日)およびREGN-EB3群(15日)が、ZMapp群(27日)よりも短かった。
予後因子の解析では、入院前の有症状期間が長い患者は予後不良であった。症状発現から1日以内に治療施設を受診した患者の死亡率は19%であったが、5日以上を要した患者は47%が死亡した。
また、ベースラインのウイルス量が少ない患者(オッズ比[OR]:0.66、95%CI:0.62~0.71)は予後良好で、血清クレアチニン値が高い患者(1.43、1.31~1.56)、AST値が高い患者(1.15、1.11~1.20)、ALT値が高い患者(1.43、1.33~1.54)は予後が不良であった。
重篤な有害事象が3例(いずれも死亡)で4件認められ、いずれも試験薬に関連する可能性があると判定された。
著者は、「EVDの爆発的流行中にも、科学的で倫理的に健全な臨床研究の実施は可能であり、爆発的流行への対応に関する情報を得るのに役立つ可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)