腹腔鏡手術により癒着に関連した再入院の発生は減少するが、癒着に関連した再入院の全体的な負荷は高いままであることを、オランダ・Radboud University Medical CenterのPepijn Krielen氏らが、後ろ向きコホート試験「SCAR試験」の結果、明らかにした。癒着は腹部手術後の長期的な合併症の最も一般的な要因で、腹腔鏡手術により癒着形成が減少する可能性はあるものの、低侵襲手術の長期的な癒着関連合併症への影響は不明なままであった。著者は、「今後、腹腔鏡手術がさらに増加すると母集団レベルでの影響はさらに大きくなる可能性があり、術後の癒着関連合併症の発生を減少させるためには次のステップが必要である」とまとめている。Lancet誌2020年1月4日号掲載の報告。
腹部/骨盤内手術例7万2,270例について、癒着に関連した再入院を解析
研究グループは、2009年6月1日から2011年6月30日の期間で、Scottish National Health Serviceの検証済みデータを用いて後ろ向きコホート試験を実施した。対象は、年齢を問わず腹腔鏡または開腹による腹部/骨盤内手術を受けた患者7万2,270例で、2017年12月31日まで追跡調査を行った。
主要評価項目は、5年時の腹腔鏡手術および開腹手術における癒着に直接関連した再入院の発生。再入院については、癒着に直接関連した障害(例:癒着剥離、癒着性小腸閉塞)による再入院、癒着に関連した可能性がある障害(例:分類不能の小腸閉塞)による再入院、癒着による合併症の可能性がある手術(例:虫垂切除後の結腸右半切除術)のための再入院に分類した。
統計解析は、手術の解剖学的部位別の再入院サブグループ解析を行い、Kaplan-Meier法によりサブグループ間の差異を評価した。また、術式が癒着関連再入院の独立した有意なリスク要因であるかを検討するために多変量Cox回帰解析を行った。
癒着に直接関連した再入院は、開腹手術に比べ腹腔鏡手術で約30%減少
7万2,270例のうち、2万1,519例(29.8%)が腹腔鏡手術を、5万751例(70.2%)が開腹手術を受けていた。7万2,270例において、術後5年以内の再入院は、癒着に直接関連した障害による入院が2,527例(3.5%)、癒着に関連した可能性がある障害による入院が1万2,687例(17.6%)、癒着による合併症の可能性がある手術のための入院が9,436例(13.1%)であった。
癒着に直接関連した再入院の発生は、腹腔鏡手術群2万1,519例中359例(1.7%[95%信頼区間[CI]:1.5~1.9])、開腹手術群5万751例中2,168例(4.3%[4.1~4.5])であった(p<0.0001)。癒着に関連した可能性がある障害による再入院の発生は、腹腔鏡手術群2万1,519例中3,443例(16.0%[15.6~16.4])、開腹手術群5万751例中9,244例(18.2%[17.8~18.6])であった(p<0.005)。
多変量解析の結果、腹腔鏡手術群は開腹手術群と比較して、癒着に直接関連した再入院が32%減少(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.60~0.77)、癒着に関連した可能性がある再入院が11%減少(0.89、0.85~0.94)した。術式、悪性腫瘍、性別および年齢も同様に、癒着関連再入院の独立したリスク因子であった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)