米国では再入院率を低下させるため、インセンティブ付きのプログラム「Hospital Readmissions Reduction Program(HRRP)」が施行されている。しかしそのために、直近の退院患者では再入院が必要となった場合も入院を拒否される可能性があり、死亡リスクが増大するのではとの指摘がある。実際にここ数年、心不全で入院が必要になったメディケア受給者で退院後30日死亡が増加しており、全米で経過観察病棟や救命救急部門(ED)での治療の増加が報告されているという。米国・テキサス大学サウスウエスタン医療センターのRohan Khera氏らは、HRRP対象症状で入院した患者の退院後間もないEDなどの利用データと患者アウトカムについて、プログラムの影響を評価する必要があるとして調査を行った。結果、プログラムの影響はみられなかったことが判明したという。BMJ誌2020年1月15日号掲載の報告。
退院後30日間の死亡について、急性期治療の利用状況を詳細に分析
研究グループは、HRRP対象症状の入院患者が退院後30日間に再入院はしなかったが経過観察病棟やEDで治療を受けており死亡リスクが増大していたか、またそれら患者の退院後の入院、ED、経過観察病棟での急性期治療利用の時間的経過を、後ろ向きコホート研究にて評価した。
2008~16年のメディケア支払いデータを用いて、HRRP対象症状(心不全、急性心筋梗塞、肺炎)で入院した65歳以上の患者の退院後30日死亡を、その間の急性期治療の利用状況(退院後30日間および31~90日間の入院、経過観察病棟、EDの利用)とともに分析した。
死亡増加は心不全例のみ、その半数がホスピスへの退院例
HRRP対象症状の入院は、心不全377万2,924例、急性心筋梗塞157万113例、肺炎313万1,162例であった。
退院後30日全死亡率は、心不全例8.7%、急性心筋梗塞例7.3%、肺炎例8.4%であった。リスク補正後の死亡率は、心不全例では年間0.05%増加(95%信頼区間[CI]:0.02~0.08)していた一方、急性心筋梗塞例では年間0.06%減少(-0.09~-0.04)していた。肺炎例では有意な変化はみられなかった。
とくに心不全例で死亡の増加がみられたのは、退院後あらゆる急性期治療を受けていなかった患者であり、年間当たりの増加は0.08%(95%CI:0.05~0.12)で、心不全例の退院後死亡率の全体の年間絶対増加率を上回っていた。
また、死亡増加は経過観察病棟やEDではみられなかった。
一方で、30日再入院率の低下とともに、経過観察病棟での滞在やEDの受診は、全3症状ともに、退院後30日間およびそれ以降の期間についても増加していた。しかし、退院後30日間の急性期治療の全利用について、有意な変化はみられなかった。症状別にみると、急性心筋梗塞を除き、心不全例と肺炎例では有意に低下していた。
著者は「死亡の増加は、プログラムの公表前に起きていたもので、退院後急性期治療を受けていない患者に集中しており、その患者の半数の退院先はホスピスであった」と述べるとともに、「退院後、経過観察病棟とEDの利用は増加したが、これら部門での治療と死亡リスク増大に関連性はみられなかった」としている。
(ケアネット)