生命を脅かす合併症がない重症の急性腎障害(AKI)患者への腎代替療法(RRT)の開始時期については、活発な議論が続いている。フランス・AP-HP Avicenne HospitalのStephane Gaudry氏らは、RRTの緊急適応のない重症AKI患者において、RRTを待機的に開始する遅延的戦略は、早期開始戦略と比較して生存への影響に差はなく、緊密な患者モニタリングの下で安全に延期が可能であることを示した。研究の詳細は、Lancet誌2020年5月9日号に掲載された。RRTの早期開始により、代謝異常や、死亡増加に関連する他の合併症のコントロールが改善する可能性があるが、医原性の合併症(低血圧症、出血、感染症、低体温症)をもたらす可能性がある。一方、RRTの開始を意図的に遅らせることで、腎機能が自然に回復するまでの時間を確保でき、RRTの必要性を除去する可能性があるという。
2つのRRT開始戦略の28日死亡率を評価するメタ解析
研究グループは、重症AKIを有する重篤な病態の成人患者において、RRTの開始時期の違いが28日死亡に及ぼす影響を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。
MEDLINE(PubMed経由)、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、2008年4月1日~2019年12月20日の期間に報告された文献を検索した。対象は、年齢18歳以上の重症AKIを有する患者において遅延(delayed)と早期(early)のRRT開始戦略を比較した無作為化試験とした。
AKIは、Kidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)のステージが2または3とし、KDIGOが使用できない場合はSequential Organ Failure Assessment(SOFA)の腎機能スコアが3点以上と定義された。
各試験の主任研究者に連絡を取り、個々の患者のデータの提供を求めた。AKIのない患者や無作為割り付けされなかった患者はメタ解析から除外された。
主要アウトカムは、無作為割り付けから28日までの全死因死亡とした。
28日死亡率:44% vs.43%、医療資源節約の可能性
10件(欧州5件、アジア4件、北米1件)の試験(2,143例)が解析に含まれた。個々の患者データは9件の試験(2,083例)から得られ、このうち1,879例が重症AKIであった。遅延群が946例(平均年齢64.3[SD 15.9]歳、男性64%)、早期群は933例(63.5[15.4]歳、63%)だった。
データが得られなかった215例を除く1,664例で主要アウトカムの解析が行われた。28日までに死亡した患者の割合は、遅延群が44%(366/837例)、早期群は43%(355/827例)であり、両群間に有意な差は認められず(リスク比:1.01、95%信頼区間[CI]:0.91~1.13、p=0.80)、全体のリスク差は0.01(95%CI:-0.04~0.06)であった。Kaplan-Meier法による28日死亡の解析では、統合ハザード比(HR)は1.01(95%CI:0.87~1.17)だった。
全試験で異質性はみられなかった(I
2=0%、τ
2=0)。また、バイアスのリスクは、ほとんどの試験で低かった。
60日および90日の死亡率、院内死亡率、入院期間、退院時RRT依存、退院時血清クレアチニン値、機械的換気が不要な日数、昇圧薬が不要な日数には、両群間に有意差はなかった。
有害事象にも両群間に差はなく、高カリウム血症が、遅延群5%、早期群3%にみられ、重症心臓調律異常がそれぞれ9%および8%、重症出血イベントが14%および12%で発現した。
著者は、「緊密な患者モニタリングの下でRRTの開始を延期することで、RRTの使用が削減され、医療資源の節約につながる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)