中国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)アウトブレイクの発生地である武漢市において、無作為抽出した住民のSARS-CoV-2抗体陽性率は6.92%で、このうち39.8%が中和抗体を保有していた。中国・武漢疾病管理予防センターのZhenyu He氏らによる血清疫学調査の結果、明らかとなった。調査は、ワクチン接種戦略の進展に役立てる目的で実施したものだという。著者は、「今回の結果は、再流行を防ぐためには集団免疫をもたらす集団ワクチン接種が必要であることを示唆している」とまとめている。Lancet誌2021年3月20日号掲載の報告。
無作為抽出で約1万人を対象に、2020年4月、6月および10~12月の3回調査
研究グループは、多段階層別クラスター抽出法を用い武漢市13地区から100のコミュニティを選択し、縦断的・横断的研究を実施した。各コミュニティから体系的に選択された対象世帯の家族全員が研究に参加することとし、2019年12月1日以降に14日間以上、武漢市に居住していた人を適格とした。
研究に同意した参加者は、人口統計学的および臨床的な質問からなる標準化された電子調査票に記入し、COVID-19関連症状とCOVID-19診断歴を自己報告した。
2020年4月14日~15日に免疫学的検査のため血液を採取し、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質に対する全免疫グロブリン(Ig)、IgM、IgAおよびIgG抗体の有無ならびに中和抗体について評価した。また、同年6月11日~13日および10月9日~12月5日にも血液を採取し、2回連続して追跡調査を実施した。
無作為抽出された4,600世帯のうち、3,599世帯9,702例が初回調査に参加し、十分な検体が得られた3,556世帯9,542例が解析対象となった。
2020年4月の抗体陽性率は6.92%、うち中和抗体陽性率は39.8%
9,542例中532例(5.6%)がSARS-CoV-2に対する全Ig陽性で、母集団のベースラインにおける補正後血清抗体陽性率は6.92%(95%信頼区間[CI]:6.41~7.43)であった。全Ig陽性者532例のうち、437例(82.1%)は無症状であった。また、532例中IgM抗体陽性は69例(13.0%)、IgA抗体陽性は84例(15.8%)、IgG抗体陽性は532例(100%)、中和抗体陽性は212例(39.8%)であった。
2020年4月に中和抗体を有していた全Ig陽性者の割合は、2回の追跡調査において安定していた(同年6月:363例中162例44.6%、同年10月~12月:454例中187例41.2%)。
3回の調査すべてに参加した全Ig陽性者335例においても、中和抗体レベルは調査期間中に有意な低下を認めなかった(中央値:ベースライン時1/5.6[IQR:1/2.0~1/14.0]vs.初回追跡調査時1/5.6[IQR:1/4.0~1/11.2]、p=1.0、vs.2回目追跡調査時1/6.3[IQR:1/2.0~1/12.6]、p=0.29)。ただし、無症状者のほうが、感染者および有症状者と比較して中和抗体価が低下した。
IgG抗体価は経時的に減少したが、IgG抗体陽性率はあまり減少しなかった(感染者:ベースライン100%[30/30例]→2回目追跡調査時89.7%[26/29例]、有症状者:同100%[65/65例]→同92.1%[58/63例]、無症状者:同100%[437/437例]→同90.9%[329/362例])。
(医学ライター 吉尾 幸恵)