妊娠糖尿病の妊婦は正常血糖値妊婦と比較して、インスリンを使用していない場合は、帝王切開による分娩や早産児・巨大児が多く、インスリンを使用している場合は、母親のアウトカムに差はないものの、新生児の在胎不当過大や黄疸、呼吸窮迫症候群などの周産期合併症の割合が有意に高いことが、中国・中南大学のWenrui Ye氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年5月25日号で報告された。
妊娠糖尿病と妊娠有害アウトカムの関連をメタ解析で評価
研究グループは、妊娠糖尿病と妊娠有害アウトカムとの関連を、最小限の交絡因子を調整したうえで評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。
1990年1月1日~2021年11月1日の期間に、医学データベース(Web of Science、PubMed、Medline、Cochrane Database of Systematic Reviews)に登録された文献が検索された。
対象は、非妊娠糖尿病(対照群)と妊娠糖尿病(曝露群)が厳格に定義され、妊娠糖尿病と妊娠のさまざまな有害アウトカムの明確な診断基準を有するコホート研究および臨床試験の対照群とした。
これらの基準を満たした研究が、インスリンの使用状況に基づき次の3つのサブグループに分けられた。(1)インスリン非使用(疾患の経過中にインスリンを使用したことがない)、(2)インスリン使用(個別の割合で、妊婦がインスリン治療を受けている)、(3)インスリン使用の報告がない。
妊娠糖尿病や妊娠有害アウトカムに影響を及ぼす可能性のある因子(国の発展状況[先進国、開発途上国]、バイアスのリスク[低、中、高]、診断基準[WHO〔1999年版〕、Carpenter-Coustan基準、国際糖尿病・妊娠学会〔IADPSG〕、その他]、スクリーニング法[universal one step、universal glucose challenge test、リスク因子に基づく選択的スクリーニング])について、事前に計画されたサブグループ解析が行われた。
インスリンの投与を受けた患者の割合に基づきメタ回帰モデルが適用された。
器械分娩や肩甲難産などには差がない
156件(インスリン非使用35件[22.4%]、インスリン使用63件[40.4%]、報告なし58件[37.2%])の研究に参加した750万6,061例の妊婦が解析に含まれた。133件(85.3%)が母親のアウトカムを、151件(96.8%)は新生児のアウトカムを報告していた。
アジアの研究が39.5%、欧州が25.5%、北米は15.4%で、84件(53.8%)が先進国で行われた研究であった。Newcastle-Ottawa尺度によるバイアスのリスクは、50件(32.1%)が低または中、106件(67.9%)は高だった。
インスリン非使用研究では、交絡因子を調整すると、非妊娠糖尿病妊婦に比べ妊娠糖尿病の妊婦で有意にオッズ比(OR)が高かったのは、次の5つの項目であった。母親のアウトカムでは、帝王切開による分娩(OR:1.16、95%信頼区間[CI]:1.03~1.32)、新生児のアウトカムでは、早産児(在胎期間<37週)(1.51、1.26~1.80)、分娩から1分後のApgarスコア低値(<7点)(1.43、1.01~2.03)、巨大児(出生時体重≧4,000g)(1.70、1.23~2.36)、在胎不当過大児(出生時体重が在胎期間の標準の90パーセンタイル以上)(1.57、1.25~1.97)。
また、インスリン使用研究では、交絡因子を調整すると、妊娠糖尿病の女性で有意にORが高かったのは次の4項目で、いずれも新生児のアウトカムであった。在胎不当過大児(OR:1.61、95%CI:1.09~2.37)、呼吸窮迫症候群(1.57、1.19~2.08)、黄疸(1.28、1.02~1.62)、新生児集中治療室入室(2.29、1.59~3.31)。
一方、器械分娩、肩甲難産、分娩後出血、死産、新生児死亡、分娩から5分後のApgarスコア低値、低出生時体重、在胎不当過小児については、交絡因子を調整しても、妊娠糖尿病の有無で明確な差は認められなかった。
サブグループ解析では、先進国よりも開発途上国において、妊娠糖尿病妊婦で巨大児が多く(インスリン使用研究のp<0.001、インスリン非使用研究のp=0.001)、インスリン使用研究ではBMIで調整すると巨大児(p=0.02)と在胎不当過大児(p<0.001)が有意に多かった。また、インスリン使用の報告がなかった研究では、選択的スクリーニングを受けた妊婦において、妊娠糖尿病妊婦で帝王切開による分娩(p<0.001)と新生児集中治療室入室(p<0.001)が有意に多くみられた。
著者は、「これらの知見は、妊娠糖尿病に関連する妊娠有害アウトカムの、より包括的な理解に寄与すると考えられる。今後の研究では、より完全な予後因子で調整することを常に心がける必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)