内勤職員の健康増進を目的とする座位時間の短縮のための介入において、SMART Work and Life(SWAL)と呼ばれる方法を導入すると、この介入を行わない通常の仕事の形態と比較して1日の座位時間が有意に短くなり、さらにSWALに高さの調節が可能な仕事机を加えると、SWAL単独よりも短縮効果が約3倍に増大することが、英国・レスター大学のCharlotte L. Edwardson氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年8月17日号で報告された。
英国の3群クラスター無作為化対照比較試験
研究グループは、SWALが日常的な座位時間に及ぼす効果を評価し、昇降式仕事机の有無で座位時間の短縮効果に差があるかの検証を目的に、3群クラスター無作為化対照比較試験を行った(英国レスター大学の助成を受けた)。
SWALは、先行研究で12ヵ月間にわたり就業時間中の座位時間の短縮に成功したStand More AT Work(SMArT Work)と呼ばれる介入法に基づいて開発された。SWALは、社会的認知理論、組織開発理論、習慣理論、自己規制理論、再発防止理論に基づく介入法で、多面的な戦略(組織、環境、個人、集団)を含み、行動変容ホイール(behaviour change wheel)の原理と、これに関連するCOM-B(能力、機会、動機付け、行動)法が活用されている。
対象は、英国レスター市の2つの地方議会、リバプール市の1つの地方議会、グレーター・マンチェスターの3つの地方議会の事務所や部局などに所属する内勤職員756人から成る78の職場クラスターであった。
これらのクラスターが、SWAL介入、SWAL+昇降式仕事机による介入、介入なしの通常の仕事の形態(対照)という3つの群に無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは、加速度計で測定された12ヵ月の時点での1日座位時間(起きている時間のうちの座っている時間)とされた。副次アウトカムには、3ヵ月時の座位時間のほか、長時間座位(30分以上)や立位、歩行の時間などが含まれた。
昇降式仕事机を加えると、座位時間が約42分短縮
SWAL群に27クラスター(249人)、SWAL+昇降式仕事机群に25クラスター(240人)、対照群に26クラスター(267人)が割り付けられた。参加者全体の平均年齢は44.7歳、547人(72.4%)が女性、566人(74.9%)が白人で、平均BMIは26.5だった。
ベースラインの平均1日座位時間は、SWAL群が601.7分、SWAL+昇降式仕事机群が610.4分、対照群は596.5分であった。ベースラインから12ヵ月時までの1日座位時間の平均変化量は、SWAL群が-9.4分、SWAL+昇降式仕事机群は-53.7分と、いずれも短縮したのに対し、対照群では15.6分延長していた。また、就業日の平均1日座位時間の平均変化量は、SWAL群が-12.8分、SWAL+昇降式仕事机群は-56.4分であり、いずれも短縮したが、対照群は2.2分延長した。
12ヵ月時の平均1日座位時間は、2つの介入群が対照群に比べ有意に短く、SWAL群で22.2分/日(95%信頼区間[CI]:-38.8~-5.7、p=0.003)、SWAL+昇降式仕事机群では63.7分/日(95%CI:-80.1~-47.4、p<0.001)短縮した。また、SWAL+昇降式仕事机群は、SWAL群よりも平均1日座位時間が41.7分/日(95%CI:-56.3~-27.0)短く、有意な差が認められ(p<0.001)、昇降式仕事机の導入の有効性が示された。
さらに、SWAL群は対照群に比べ、3ヵ月時の1日座位時間の変化量が良好で、3ヵ月と12ヵ月時の1日長時間座位時間、3ヵ月と12ヵ月時の就業日の1日座位時間と1日長時間座位時間、3ヵ月時の就業日の1日歩行時間も優れた。
また、SWAL+昇降式仕事机群は対照群に比し、3ヵ月時の1日座位時間の変化量が優れ、3ヵ月と12ヵ月時の1日長時間座位時間と1日長時間立位時間、3ヵ月と12ヵ月時の就業時間中および就業日の座位時間、長時間座位時間、立位時間が良好であった。介入群では、12ヵ月時の就業時間中の歩行時間も良好だった。非就業日のアウトカムの変数はいずれも、介入群と対照群で差はなかった。
加えて、介入群では、ストレス、ウェルビーイング、ワーク・エンゲイジメントの下位尺度の「活力」がわずかに改善したが臨床的な意義はなく、仕事関連のアウトカムや筋骨格系の問題への悪い影響もなかった。また、SWAL+昇降式仕事机群では、下肢の疼痛や、就業中の座位・立位に関する社会規範(「机で仕事中に立ち上がっても同僚は気にしないだろう」)、支援(座位時間を減らし、より頻繁に動くために、組織、上司、同僚、家族から受けた)が改善された。
著者は、「SWAL+昇降式仕事机群のベースラインの1日座位時間は約10時間で、12ヵ月時には、対照群に比べ1日60分以上の座位時間の短縮が認められた。これは、臨床的に意義のある変化であり、健康アウトカムを改善する可能性があることが、観察研究のエビデンスで示唆されている」と指摘し、「今後は、動く時間を増やすだけでなく、仕事以外での変化をいかに支援するのがよいかを探るなどの研究が求められる」としている。
(医学ライター 菅野 守)