ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に関連した心血管疾患の有病率は増加しているが、そのメカニズムはまだ十分に理解されていないという。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのJonathan A. Hudson氏らは、HIV感染者と非感染者を高度な心血管画像法で比較した研究のデータを解析した。その結果、HIV感染者の画像ベースの心血管系病変に関する利用可能なデータの要約を提供することはできたものの、解析の対象となった研究は異質性が大きく、HIV感染率の高い低所得国のデータは含まれていないため、結果の解釈は限定的とならざるをえないことが示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年9月13日号に掲載された。
感染の有無で心血管画像を比較した研究の系統的レビュー
研究グループは、HIV感染者と非感染者をCT冠動脈造影、心臓MR、PETを用いて比較検討した高度な心血管画像研究について系統的なレビューを行った(英国心臓財団の助成を受けた)。
3つのデータベース(MEDLINE、EMBASE、Global Health)とGoogle Scholarを用い、開設時から2022年2月11日までに発表された論文が検索された。「computed tomographic coronary angiography」「cardiac MR」「PET」「HIV」を検索語とし、これらの画像法で心血管の病理所見を評価した研究が対象となった。
主要アウトカムは、CT冠動脈造影で描出された中等度~重度(≧50%)の冠動脈狭窄、ガドリニウム遅延造影による心臓MRで描出された心筋線維症、PETによる血管と心筋の放射能濃度比とされた。
ほとんどが北米と欧州の研究
45の論文が解析の対象となった。HIV感染者5,218例(平均年齢48.5歳)と非感染者2,414例(49.1歳)が解析に含まれた。16試験(5,107例)はCT冠動脈造影による評価を、16試験(1,698例)は心臓MR、10試験(681例)は血管PET、3試験(146例)はCT冠動脈造影と血管PETの双方による検討を行っていた。
45の研究のうち38件は高所得国(49%が米国)、7件は高中所得国で行われたもので、低所得国で実施された研究はなかった。横断研究が85%、前向きコホート研究が13%、無作為化臨床試験が2%だった。バイアスのリスクは、22%が低、47%が中、31%は高に分類された。
中等度~重度の冠動脈疾患の有病率の範囲は、HIV感染者が0~52%、非感染者は0~27%で、有病率比の範囲は0.33(95%信頼区間[CI]:0.01~15.90)~5.19(同:1.26~21.42)であった。この統合解析では、中等度の統計学的異質性(I
2=62%、p=0.05)が認められた。
心筋線維症の有病率の範囲は、HIV感染者が5~84%、非感染者は0~68%で、有病率比の範囲は1.01(同:0.85~1.21)~17.35(同:1.10~274.28)であった。この統合解析では、高度の統計学的異質性(I
2=88%、p<0.005)がみられた。
また、PETによる血管の放射能濃度比の、HIV感染者と非感染者の差の範囲は、0.06(同: 0.01~0.11)~0.37(同:0.02~0.72)だった。この統合解析では、中等度の異質性(I
2=64%、p=0.07)が観察された。
著者は、「この研究により、HIV感染者における高度な心血管画像研究のほとんどが北米と欧州のHIV集団(世界のHIV感染者の6%にすぎない)を対象としていることが示され、サハラ以南のアフリカなどの感染率の高い地域のHIV集団への、得られた知見の一般化には限界があることが明らかとなった」としている。
(医学ライター 菅野 守)