慢性腰痛患者が医師に診せない理由

提供元:ケアネット

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公開日:2016/10/20

 

 2016年10月17日(月)、塩野義製薬株式会社/日本イーライリリー株式会社主催のプレスセミナー「慢性腰痛治療の現状と課題―患者と医師の対話の中で見えてくること―」が開催された。まず、日本イーライリリー株式会社 臨床開発医師 榎本 宏之氏より、慢性腰痛に伴う痛みが患者の日常生活に及ぼす影響に関するインターネット全国調査の結果1)が発表された。その結果を受け、慢性腰痛治療に造詣の深い浜松医科大学 整形外科 教授の松山 幸宏氏より、慢性腰痛治療の現状や患者コミュニケーションの重要性、治療ゴール設定のポイントなどが語られた。

慢性腰痛患者の9割以上が日常生活に何らかの支障がある
 慢性疼痛で最も多い部位は「腰」である2)。今回の調査結果によると、慢性的な腰痛により日常生活に欠かせない動作や活動に何らかの支障を来していたと回答した患者は実に94.4%にのぼった。「物を持ち上げる」、「立ち上がる・しゃがむ」といった動作はもちろん、痛みが最もひどい時期には「起床」や「睡眠」にも半数以上の患者が支障を来していた。さらに、3人に1人が仕事を辞めたいと思ったことがあると回答し、患者のQOLに大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。

慢性疼痛患者の半数以上はまったく治療を受けていない
 そのような苦しみを抱えているにもかかわらず、病院・クリニックで治療を受けている慢性疼痛患者はたった19%、民間療法が20%、まったく治療を受けていない患者が半数以上を占めるといった状況であるという。受けた治療の種類もマッサージが31%と最も多く、薬物療法22%、物理療法16%と続く3)。なぜこのような状況が生まれたのか? その理由が今回の調査で浮き彫りになった。

6割の患者は医師の現在の治療法に満足せず
 「慢性的な腰痛の治療において、医師の現在の治療法に満足しているか」という質問に「当てはまる」、「ある程度当てはまる」と回答した患者は42.2%にとどまった。また、治療に満足していない患者の68.8%は、医師に不満を伝えていなかった。一方、医師が考える患者の満足度は、実際の患者満足度よりも若干高く、医師と患者で意識差がある可能性が示唆された。患者が治療に満足していない理由として一番多かったのは、「期待していた鎮痛効果が得られなかったから」。また、医師に不満を伝えない理由は、「治療法を変えても、これ以上痛みは軽減しないと思うから」、「相談しても治療法を変えてくれなそうだから」と患者側が諦めていることがわかった。「患者が来院しなくなると、医師は痛みがなくなって満足したからだと考えるが、実は違う」と松山氏。

患者・医師間で治療に対する理解・期待値に隔たり
 慢性疼痛の原因は、器質的疾患が特定される場合もあれば、感覚・情動など複雑な要因が絡み合い、臨床上完全に特定されない場合もある。そのため、慢性腰痛症の治療も単独ではなく、さまざまな選択肢を組み合わせて行うことが重要である。しかし、そのような治療を行って痛みをゼロにできる患者もいれば、これ以上悪化しないよう現状維持、という患者もいる。このことを医師は知っているが、患者は知らないことが多い。そこで意識差が生まれ、「期待していた鎮痛効果が得られない」と患者は治療に満足できなくなる。そして、失望して医師に診せるのをやめ、長い時間マッサージをしてくれる民間療法に頼ったり、治療自体をやめてしまったりするのである。

まとめ
 慢性腰痛症患者の治療満足度を向上させるには、まず医師が患者一人ひとりとコミュニケーションをとり、患者の痛みの程度と生活の支障の程度を判断する必要がある。「治療により仕事や趣味、スポーツができる程度までの改善が見込めるのか、それとも日常生活がこなせるくらいの改善をめざすのか。患者の希望と現実を照らし合わせて治療ゴールを設定することで、患者も納得して治療に取り組むことができる」と松山氏は強調する。エビデンスに基づいた治療を行うことができるのは医師のみである。慢性腰痛症に苦しむ患者に、現在の治療に満足しているか、医師側から問いかけてみてはいかがだろうか。

1) 調査概要
監修:国立大学法人 浜松医科大学 整形外科 教授 松山 幸宏
調査日:2016年9月12日~20日
対象:慢性腰痛症患者 2,350名
   20歳以上男女、医療機関で慢性腰痛症と診断され、
   現在治療中または治療を行っていた方
   47都道府県/50名(男女 各25名)
   慢性腰痛症の治療経験のある整形外科医111名
地域:全国
調査方法:インターネット調査(実査:株式会社マクロミル)
調査主体:塩野義製薬株式会社、日本イーライリリー株式会社

2) 矢吹省司ほか. 臨床整形外科. 2012;47:127-134.
3) Nakamura M, et al. J Orthop Sci. 2011;16:424-432.

(ケアネット 武田 真貴子)