COVID-19、水際対策のあるべき姿とは

提供元:ケアネット

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公開日:2020/02/18

 

 “検疫における水際対策を一層徹底する”という内閣総理大臣からの指示がなされ、報道でも水際対策の強化が取り上げられている。2月13日に開催されたメディア・市民向けセミナー「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症への対応」において、加來 浩器氏(防衛医科大学校防衛医学研究センター 広域感染症疫学・制御研究部門教授)がその対策の真意を語った(主催:日本感染症学会、日本環境感染学会、FUSEGU2020)。

彼を知り己を知れば百戦殆うからず

 COVID-19とは、ギリシャ語の王冠(corona)に由来するスパイクタンパクを有するウイルスによる感染症である。このウイルスは脂質二重膜からなるエンベロープを有しているため、アルコールで失活しやすく、SARSやMERSの病原体と同じβコロナウイルスに分類されている。

 このCOVID-19と闘うためには、「まず、彼を知る(病原体のウイルス学的な特徴、感染源・感染経路における他のコロナウイルスとの類似性、中国と日本での発生状況…)、己を知る(感染が広がらない・重症化しないための対策)」などの事前準備が大切と同氏は訴え、そのためには感染症の理解において、「一般市民と医療者に大きな違いがある」ことを認識しておかなければならないことを指摘した。同氏によれば、「一般市民は、恐怖心や偏見・差別などを抱きつつ、時間経過に伴い無関心・無頓着になる傾向がある」という。

新興感染症の特徴と対策

 一般的に新興感染症は、(1)臨床像がわからない、(2)市中病院では病原体診断ができない、(3)感染源・感染経路がわからない、(4)有効な治療法やワクチンがないなどの問題がある。とくに(3)のために院内での感染リスクが高まり、全国の医療機関で医療崩壊が起こる可能性がある。したがって海外で発生した新興感染症は出来るだけ早期にその臨床的な特徴を明らかにして、その情報を皆でシェアしなければならない。

 一般市民が出来る対策と言えば、マスクの正しい着用やアルコール消毒、うがいなどが挙げられる。一方で、医療者は科学的根拠の収集や法令遵守に努め、患者に良質で適切な医療の提供を行うことが求められるが、このためには国家レベルでの対策が必要であり、その1つが水際対策である。

ウイルスの水際対策は、着上陸侵攻対処になぞらえて戦略的に行うべき

 そこで、一般的に水際対策と言われる検疫業務が実施されるわけだが、同氏はこれについて「単なるウイルスの上陸阻止だけを示すものではなく、国内での輸入感染対策の戦略的な活動の一環であることを理解すべきだ」とコメントした。すなわち、入国する前の検疫の段階で捉えることができた患者には、「感染制御策が行われている医療機関に安心して入院してもらい、人権を尊重しながら適切な医療を提供(迅速診断、病室確保・隔離、治験など)する。そこで明らかになった知見を、いち早く医療機関の医師に情報提供し、全国の医療機関での診療能力を高めて、国内に入り込んだウイルスを一気にたたくという作戦だ」とし、「国内サーベイランスの強化のためには簡易な検査法の開発も重要」と話した。

 最後に同氏は、一般市民に対して「類似の感冒やインフルエンザとの鑑別、早期の診断、重症化兆候の把握のために、患者が医療機関を転々とするドクターショッピングを行わず、一貫した診療に協力していただきたい」とメッセージを発信した。

(ケアネット 土井 舞子)