片頭痛へのガルカネズマブ承認、既存薬との使い分けは

提供元:ケアネット

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公開日:2021/03/16

 

 「片頭痛発作の発症抑制」を効能・効果として、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体薬ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)が1月22日に製造販売承認を取得した。2月25日にオンラインメディアセミナーが開催され(主催:日本イーライリリー)、平田 幸一氏(獨協医科大学 副学長)、坂井 文彦氏(埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長)が登壇。同薬の片頭痛治療における位置づけと臨床試験結果について講演した。

片頭痛発生メカニズムと鍵となるCGRP

 現在、片頭痛の発生メカニズムとしては「三叉神経血管説」が広く受け入れられている。ストレス・ホルモン等の内因性の刺激、あるいは天候・匂いや光といった外因性の刺激を受けることによって三叉神経終末からCGRPなどの神経ペプチドが放出される。神経ペプチド放出により血管拡張、血漿タンパクの漏出、肥満細胞の脱顆粒などの神経原性炎症が発生し、疼痛シグナルが中枢へと伝達して大脳皮質で痛みとして知覚される。

 実際に片頭痛の発作中には、血中および唾液中のCGRPレベルが上昇し、非発作時には低下することが確認されている。三叉神経からCGRPが放出されるとセロトニン1B・D受容体が受け入れ、血管が急速に拡張する。その結果血管周辺の組織に炎症が起こり、頭痛が発現してしまう。

片頭痛の慢性化・難治化を防ぐには

 片頭痛の治療において重要なのは、何より発作回数を減らすこと、と平田氏。誘因となる音や光といった純粋な外部刺激には、サングラスや耳栓が有効なケースもあるし、内因的要因に対しては、簡単な認知行動療法の有用性も知られている1)

 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では片頭痛の薬物療法として、アセトアミノフェンやNSAIDsなど、重症の場合はトリプタンを使うという層別治療が推奨されている。しかし、同氏らが実施した片頭痛発作に対するトリプタンの有効性に対する患者満足度調査の結果では、およそ半数で満足が得られていないという結果であった2)

 とくにひどい片頭痛症状を起こす病態では、薬物の使用過多による頻度の増加や、中枢感作が生じることによる慢性化、難治化につながってしまうケースがある。そうなると既存薬の効果は限定的となり、「慢性化・難治化してしまう前に、片頭痛発生の大元であるCGRPを阻害することが重要となる」と平田氏は話した。

ガルカネズマブ投与で発症日数が有意に減少

 ガルカネズマブはCGRP に選択的な結合親和性を有し、三叉神経から放出されたCGRPが受容体と結合する前に阻害することを作用機序とする。他剤(2~4種類)で効果不十分な片頭痛患者(日本人患者を含む)を対象とした国際共同第III相試験(CGAW/CONQUER試験)において、ガルカネズマブ投与群では1ヵ月当たりの片頭痛発症日数(3ヵ月平均)が4.1日減少し、プラセボ群(1.0日減少)と比較して有意に減少していた3)。その効果は3ヵ月間持続し、持続期間についてもプラセボ群と比較して有意な差がみられた。これらの効果は、反復性片頭痛および慢性片頭痛患者における部分集団解析においても確認されている。

 同様に、反復性片頭痛患者を対象とした国内第II相試験(CGAN試験)においても、ガルカネズマブ投与群では1ヵ月当たりの片頭痛発症日数(6ヵ月平均)が3.6日減少し、プラセボ群(0.6日減少)と比較して有意に減少、その効果は6ヵ月持続していた4)。また、投与1週間目からすでに、片頭痛日数が有意に低下しており、坂井氏は「持続性に加えて即効性も確認されたといえるだろう」と話した。

 50%反応率(1ヵ月当たりの片頭痛日数がペースライン値より50%以上減少した患者割合)はガルカネズマブ投与群で49.8%。坂井氏は「患者さんたちは皆さん、片頭痛が半分になるということは大きな意味があると話される」とし、“自分が取り戻せた”という声もあったという。

 安全性については、CGAW/CONQUER試験とCGAN試験でともに最も多くみられた副作用は注射部位紅斑であった。CGAN試験でその詳細をみると、ガルカネズマブ投与群で17例(14.8%)、プラセボ群で5例(2.2%)発生し、多くが投与当日に発現した。

 なお、ガルカネズマブは初回に2本(240ml)、2カ月目から1ヵ月ごとに1本(120ml)皮下投与を行う。初回のローディングドーズ投与により、初回投与後速やかに血中濃度に到達させる設計となっている。

トリプタンや他の予防薬との併用、使い分けは?

 急性期片頭痛の治療薬として使われるトリプタンの半減期が約2時間なのに対し、ガルカネズマブは約1ヵ月となっている。坂井氏は、「おのずとそれぞれ急性期治療と予防と、使い方は違ってくる」と説明。「ガルカネズマブで発症を約半分にできるということは、トリプタンを使うタイミングが減って、より上手に使えるようになるのではないか」と期待感を示した。

 予防薬としては、現在日本で使われているものは4種類。しかし、効果のある人・ない人の差が大きい。また、これまでの予防薬は脳全体の機能をコントロールするあるいは低下させるというものであったが、ガルカネズマブは片頭痛のメカニズムそのものに作用するという新しい機序を持った薬となる。坂井氏は、状況に応じて併用・使い分けはありうるとの認識を示した。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

参考文献・参考サイトはこちら

1)平田 幸一編.症例から学ぶ戦略的片頭痛診断・治療.南山堂.2010