がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。
「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに
猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。
このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。
輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは
近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある
1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている
2)。
「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」
3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:
・浮腫→疼痛、倦怠感
・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽
・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴
・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下
・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛
これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。
症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング
では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった
4)。
実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。
(ケアネット 遊佐 なつみ)