米国食品医薬品局(FDA)は、研究スポンサーを有する独自の臨床試験のデータに基づき承認を行うが、抗うつ薬については、小児や若年成人における自殺リスク増加に関するブラックボックス警告が、いまだに維持されたままである。米国・Larned State HospitalのAndy Roger Eugene氏は、抗うつ薬のブラックボックス警告が、現在でも有益であるかを評価するため、最近の医薬品安全性データを用いて検討を行った。Frontiers in Psychiatry誌2024年11月1日号の報告。
2017〜23年の米国FDAの有害事象報告システム(FAERS)より、市販後の抗うつ薬有害事象データを収集した。症例対非症例法および交絡因子で調整したのち、ロジスティック回帰分析を用いて検討を行った。調整因子には、性別、年齢層、医薬品使用目的(主薬、副薬、相互作用、併用薬)、初回報告年、抗うつ薬と年齢層の相互作用を含めた。本分析で使用した年齢層は、8〜17歳(小児)、18〜24歳(若年成人)、25〜64歳(成人)、65〜112歳(高齢者)とした。
主な結果は以下のとおり。
・多変量解析では、fluoxetineにおいて、25〜64歳の成人患者と比較し、小児、若年成人では自殺リスクの増加との関連が認められたが、高齢者では認められなかった。
【小児】調整報告オッズ比(aROR):7.38、95%信頼区間[CI]:6.02〜9.05
【若年成人】aROR:3.49、95%CI:2.65〜4.59
【高齢者】aROR:0.76、95%CI:0.53〜1.09
・fluoxetineと比較し、esketamineは、小児における自殺傾向が最も高かったが、若年成人ではリスク低下と関連し、高齢者では有意な差が認められなかった。
【小児】aROR:3.20、95%CI:2.25〜4.54
【若年成人】aROR:0.59、95%CI:0.41〜0.84
【高齢者】aROR:0.77、95%CI:0.48〜1.23
・国別の結果では、米国と比較し、スロバキア、インド、カナダの自殺傾向リスクが最も低かった。
・研究対象集団全体では、自殺傾向リスクの低下と関連していた抗うつ薬は、desvenlafaxine(aROR:0.61、95%CI:0.46〜0.81)とvilazodone(aROR:0.56、95%CI:0.32〜0.99)のみであった。
著者らは「米国において、小児や若年成人に抗うつ薬を使用する際の自殺リスク増加に関するブラックボックス警告は、現在においても有効であることが示唆された。しかし、米国と比較し、他の15ヵ国では自殺傾向リスクが有意に低く、16ヵ国において38種類の抗うつ薬使用とリチウムによる自殺傾向の報告リスクが高かった」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)