一風変わった視覚障害は早期のアルツハイマー病のサインかも

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2024/02/21

 

 アルツハイマー病症例の約10%に早い段階から生じる、後部皮質萎縮症(posterior cortical atrophy;PCA)と呼ばれる視覚障害は、近いうちにアルツハイマー病を発症することを知らせるシグナルである可能性の高いことが、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)神経科のMarianne Chapleau氏らによる研究で示された。この研究結果は、「Lancet Neurology」2月号に掲載された。

 PCAでは、文字を書く、物が動いているのか止まっているのかを判断する、落とした物を拾うなどの、視力を必要とするタスクをこなすのが突然難しくなる。しかも、このような日常生活に影響を及ぼすような症状が現れても、視力検査では異常が検出されないという。Chapleau氏は、「患者はたいていの場合、視覚症状が出始めると検眼士を受診し、眼科医に紹介される場合もあるが、眼科医でもPCAを認識できないことがある。そのような患者を早期に発見して治療を受けさせるには、臨床現場で使える優れたツールが必要だ」と話す。

 今回の研究でChapleau氏らは、16カ国、36施設の研究機関から収集されたPCAに関する大規模データを用いて、患者の特徴や臨床的な症状、生物学的な指標、神経病理学的な特徴について調査した。対象者の総計は1,092人(女性60%)で、PCA発症時の平均年齢は59.4歳、初めて診断を受けたときの平均年齢は63.3歳であった。

 データを分析した結果、PCA患者は、簡単な図を正確に写す、物体の位置を把握する、一度に複数の物体を視覚的に認識することが困難な傾向の強いことが示されたほか、計算障害も観察された。

 また、脳脊髄液(CSF)中のアミロイドβは81%(28施設の536人が対象)で陽性であり、リン酸化タウは65%(29施設の503人が対象)で陽性であった。アミロイドPET検査では、94%がアミロイド陽性(24施設の299人が対象)、タウPET検査では97%がタウ陽性(13施設の170人が対象)であった。さらに、剖検データの解析(13施設の145人が対象)では、94%でアルツハイマー病の病理所見が認められ、残る6%ではレビー小体型認知症や前頭側頭葉変性症といった他のタイプの認知症が認められた。アルツハイマー病の所見が認められた患者のほとんどに、一つ以上の合併症が認められた。その内訳は、脳アミロイド血管症(71%)、レビー小体型認知症(44%)、脳血管障害(42%)であった。

 Chapleau氏らは、記憶力の低下が認められる患者でアルツハイマー病の病理所見が認められる割合は70%ほどであることに言及し、PCAによる認知症の予測能は記憶力の低下などの症状による予測よりもはるかに優れていると指摘している。

 研究論文の共著者であるUCSF神経科および同大学の記憶・老化センターのRenaud La Joie氏は、多くの人で、PCAの診断から、実際に記憶、実行機能、行動、発話および言語に軽度または中等度の障害が見られるようになるまでの期間が約4年であったことを踏まえて、「PCAは通常、認知症になる何年も前に発現するため、新たに承認されたアルツハイマー病治療薬の効果が期待できる患者の特定につながるのではないか」との考えを示している。

 また、論文の上席著者でUCSFアルツハイマー病研究センターのGil Rabinovici氏は、「患者が正しい診断、カウンセリング、ケアを受けられるように、医師がPCAを認識できるよう学ぶことが重要だ」と付け加えている。さらに同氏は、「科学的な観点からは、アルツハイマー病がなぜ脳の記憶領域よりも視覚領域を特に標的とするのかを解明する必要がある」と話し、「われわれの研究では、PCA患者の60%が女性であることが示されたが、なぜ女性の方がPCAに罹患しやすいのかについて解明を進めることも、今後の重要な研究課題の一つになる」と付け加えている。

[2024年1月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら