高齢の軽度認知障害(MCI)患者は、白内障手術を受けると認知機能が改善する可能性のあることが、順天堂東京江東高齢者医療センター眼科の吉田悠人氏らの研究グループが実施した前向きコホート研究から明らかになった。一方で、認知症患者では白内障手術前後で認知機能テストのスコアに有意な変化は見られなかったことから、研究グループは「認知機能の改善を期待するには、認知症の前段階で白内障手術を行うことが望ましい可能性がある」と述べている。研究の詳細は「Acta Ophthalmologica」に12月25日掲載された。
白内障は、世界的に視覚障害の原因の一つとなっている。先行研究では、白内障手術を受けた患者は、手術を受けていない患者に比べて認知症の発症リスクが低減することなどが報告されているが、これらの関連は明らかになっていない。また、臨床現場では、重度の認知症患者においては白内障手術後に認知機能の改善が見られるケースは少ない。そこで吉田氏らは、重度の認知症患者よりもMCI患者は白内障手術後に認知機能が大幅に改善する可能性があるという仮説を検証するため、75歳以上の高齢者を対象とした多施設共同前向きコホート研究を実施し、白内障手術が認知機能に与える影響を検討した。
この研究は、2019年から2021年の間に白内障手術を受けた75歳以上の患者88人(平均年齢84.9歳、男性28.4%、視覚障害の有病率43.2%)を対象に実施された。術前および術後3カ月の時点で最高矯正視力(BCVA)などの視力を測定し、同時にミニメンタルステート検査(MMSE)と視覚障害者向けのMMSE(MMSE-blind)を用いて認知機能を評価した。ベースライン時のMMSEスコアに基づき、対象患者を認知症群(MMSEスコア23以下:39人)とMCI群(同スコア23超27以下:49人)に分けて解析した。
その結果、対象患者全体では、MMSEスコアは白内障手術前と比べて術後の方が有意に高かった(MMSE:22.55±4.7対23.56±5.54、P<0.001、MMSE-blind:15.34±3.94対16.11±5.01、P=0.001)。認知機能障害の重症度別に見ると、認知症群では白内障手術前後のMMSEスコアに統計学的な有意差は見られなかったのに対し、MCI群では、MMSEスコア(25.65±1.03対27.08±1.99、p<0.001)とMMSE-blindスコア(18.04±1.14対19.41±2.01、p<0.001)はいずれも術後の方が有意に高かった。また、対象患者全体とMCI群では、「注意/集中力」「即時想起」の2つの領域で術後のスコアが改善した。
さらに、年齢や性別、手術前の認知機能などで調整したロジスティック回帰分析の結果、認知機能は、認知症群と比べてMCI群の方が有意に改善した(調整オッズ比2.85、95%信頼区間1.02~7.97、P=0.046)。なお、視力は、両群ともに白内障手術後に有意に改善した。
著者らは、今回の研究には認知症のサブタイプ分類がなされなかったこと、観察期間が短かったこと、認知機能の評価がMMSEに限られていたことなど限界があったと指摘。その上で、「白内障手術によって、認知症患者のMMSEスコアには有意な変化は見られなかったが、MCI患者の認知機能は有意に改善することが分かった。この結果は、白内障手術後に認知機能が改善するかどうかは、術前の認知機能の状態に大きく影響を受ける可能性を示唆するものだ。今後さらなる研究で検証していく必要がある」と結論付けている。
[2024年2月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら