高齢心不全患者に対する植込み型除細動器、バイアスの影響で過少適用に/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2014/05/28

 

 高齢心不全患者に対する植込み型除細動器(ICD)の臨床効果の評価では、ベースライン時に評価が行われない健康状態の因子が影響を及ぼし、その適用が過少となっている実情が、アメリカ・ハーバード大学医学部のSoko Setoguchi氏らの調査で示された。ICDの臨床試験では、併発疾患を有する高齢患者は、病態が過度に不良と評価される傾向にある。また、観察試験では、測定が行われない背景因子が比較効果(comparative effectiveness)の評価に影響を及ぼしており、薬剤疫学におけるhealthy user biasや、職業性疾患疫学におけるhealthy worker effectに類似のバイアス(healthy candidate bias)を考慮する必要があるという。BMJ誌オンライン版2014年5月8日号掲載の報告より。

患者選択に及ぼす非評価因子の影響を後ろ向きコホート試験で評価
 研究グループは、高齢心不全患者に対するICD施行の患者選択において、評価が行われない背景因子が及ぼす影響を検討するために、ICDでは改善されないと考えられるアウトカムのリスクを、ICD施行の有無別に比較するレトロスペクティブなコホート試験を実施した。

 解析には、ICDレジストリー(2005~2008年)および心不全レジストリー(2005~2008年)のデータと、メディケア(2004~2009年)のICD診療報酬請求データを連関させたデータベースを使用した。ICDの適応と判定された66歳以上の心不全患者2万9,426例が対象となった。

 ICDの施行により改善される可能性のないアウトカムとして、非外傷性大腿骨頸部骨折による入院、高度看護施設(老人介護ホーム)への入所、30日死亡率の3項目について評価を行った。

ICD非関連イベントの発生リスクがICD施行例で実質的に低い
 ICD施行例(1万1,573例)はICD非施行例(1万7,853例)に比べ、平均年齢が若く(75.0 vs. 80.0歳)、男性が多く(74 vs. 52%)、白人が多かった(87 vs. 84%)。

 また、ICD施行例は非施行例よりも左室駆出率中央値が低く(25 vs. 29%)、心不全による入院歴のある患者(19 vs. 16%)や心不全の病因が虚血性の患者が多かった(87 vs. 79%)。一方、ICD施行例は、非心疾患による入院歴(28 vs. 36%)や、慢性腎臓病(33 vs. 45%)、慢性閉塞性肺疾患(42 vs. 46%)、認知症(8 vs. 20%)、うつ(11 vs. 16%)、転移性がん(1 vs. 3%)などの併発疾患の有病率が低かった。

 年齢および性別で補正済みの3つのICD非関連イベントの発生率は、いずれもICD施行例で有意に低かった。すなわち、非外傷性大腿骨頸部骨折による入院のハザード比(HR)は0.77(95%信頼区間[CI]:0.64~0.92)、高度看護施設への入所のHRは0.53(95%CI:0.50~0.55)、30日死亡率のHRは0.12(95%CI:0.10~0.15)だった。

 また、駆出率、収縮期血圧、血清ナトリウム、血清脳性ナトリウム利尿ペプチド、推定糸球体濾過量など、すべての背景因子で補正済みのイベント発生率のHRは、非外傷性大腿骨頸部骨折による入院が0.84(95%CI:0.66~1.05)、高度看護施設への入所が0.71(95%CI:0.67~0.76)、30日死亡率は0.20(95%CI:0.17、0~0.24)であり、骨折で有意差が消失したものの、実質的にICD施行例でリスクが低かった。

 著者は、「ICD施行例と非施行例間の生存の差には、ICD施行例で非外傷性大腿骨頸部骨折や高度看護施設入所、30日死亡のリスクが低いなど、ベースライン時に評価されない健康状態の因子が影響している」とまとめ、「このようなhealthy candidate biasが、個々の治療法のアウトカムに関する比較効果の観察的解析では落とし穴となる可能性がある。また、高齢患者におけるICDの活用が不十分であることは明白で、これは医師が臨床的な意思決定を行う際に、高価な治療法はベネフィットを受ける可能性が最も高い患者に適用しようと、虚弱などの背景因子を過度に慎重に考慮している実情を反映するものと考えられる」と指摘している。

(医学ライター:菅野守)