脂質異常症の標準治療に新規のLDLコレステロール(LDL-C)低下薬であるエボロクマブ(承認申請中)を追加し約1年の治療を行うと、標準治療単独に比べLDL-C値が有意に減少し、心血管イベントが抑制されることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMarc S Sabatine氏らOSLER試験の研究グループの検討で明らかとなった。エボロクマブは、前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、短期的な臨床試験でLDL-C値を約60%減少させることが確認されていた。NEJM誌オンライン版2015年3月15日号掲載の報告より。
12件の親試験の第II、III相別の延長試験を統合解析
OSLER試験は、エボロクマブに関する12の親試験(parent study、第II相:5件[日本のYUKAWA-1試験を含む]、第III相:7件)を完遂した患者を対象とする延長試験であり、本薬の長期的な有用性の評価を目的に、OSLER-1試験(第II相試験)とOSLER-2試験(第III相試験)に分けて検討が行われた(Amgen社の助成による)。親試験には、脂質異常症治療薬未使用例、スタチン±エゼチミブ投与例、スタチン不耐容例、ヘテロ型家族性高コレステロール血症例などが含まれた。
被験者は、親試験での割り付けとは別に、標準治療+エボロクマブまたは標準治療のみを施行する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。エボロクマブは、OSLER-1試験では2週ごとに140mgが皮下投与され、OSLER-2試験では2週ごと140mgと月1回420mgのいずれかを患者が選択した。
脂質値、安全性および事前に規定された探索的解析として心血管イベント(死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血行再建術、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全)の評価を行い、2つの試験の統合解析を実施した。
2011年10月~2014年6月までに4,465例(OSLER-1試験:1,324例、OSLER-2試験:3,141例)が登録され、エボロクマブ群に2,976例(平均年齢57.8歳、男性50.1%、LDL-C中央値120mg/dL)、標準治療単独群には1,489例(58.2歳、51.4%、121mg/dL)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は11.1ヵ月であった。
LDL-C値が61%減少、心血管イベントは53%減少
12週時のLDL-C値は、エボロクマブ群が48mg/dLであり、標準治療単独群の120mg/dLと比較した減少率は61%であった(p<0.001)。OSLER-1とOSLER-2試験の間に減少率の差はなかった。また、このエボロクマブ群のLDL-C値の減少は48週まで持続した(24週の減少率:59%、36週:54%、48週:58%、いずれもp<0.001)。
12週時に、エボロクマブ群の90.2%がLDL-C値≦100mg/dLとなり、73.6%が≦70mg/dLを達成した。標準治療単独群はそれぞれ26.0%、3.8%だった。
12週時の非HDL-C、アポリポ蛋白B、総コレステロール、トリグリセライド、リポ蛋白(a)は、LDL-Cと同様にエボロクマブ群で有意に減少した(いずれもp<0.001)。また、HDL-Cとアポリポ蛋白A1は有意に増加した(いずれもp<0.001)。
有害事象はエボロクマブ群の69.2%、標準治療単独群の64.8%に認められ、重篤な有害事象はそれぞれ7.5%、7.5%に発現した。神経認知障害(せん妄、認知/注意障害、認知症、健忘症など)はエボロクマブ群で多くみられた(0.9 vs. 0.3%)が、治療期間中のLDL-C値とは関連がなかった。
エボロクマブによる治療中止は2.4%、注射部位反応は4.3%に認められ、そのほか関節痛や頭痛、四肢痛、疲労感が標準治療単独群よりも多くみられた。
1年時の心血管イベントの発症率は、エボロクマブ群が0.95%であり、標準治療単独群の2.18%に比し有意に低かった(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.28~0.78、p=0.003)。
著者は、「61%というLDL-C値の減少率は、既報の短期的な試験と一致しており、48週にわたる効果の持続はより小規模な試験(DESCARTES試験)の結果と一致した。他の脂質に対する効果にも既報との一貫性が認められた」としている。
(菅野守:医学ライター)