中等度リスクの重症大動脈弁狭窄症、新世代TAVRの有用性/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2016/04/18

 

 手術による死亡リスクが中等度の重症大動脈弁狭窄症患者において、SAPIEN 3生体弁を用いた経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、1年時の死亡率が低く、外科的大動脈弁置換術(SAVR)に比べ予後が良好であることが、米国・エモリー大学のVinod H Thourani氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月3日号に掲載された。新世代の生体弁であるSAPIEN 3を用いたTAVRは、中等度リスクの重症大動脈弁狭窄症における30日時の短期的な臨床転帰の改善が報告されているが、長期的な転帰は不明であった。

観察試験の長期データと、他試験との傾向スコア解析による比較
 研究グループは、SAVRによる30日死亡のリスクが中等度の重症大動脈弁狭窄症に対するSAPIEN 3生体弁を用いたTAVRの長期的なデータを報告し(SAPIEN 3観察試験)、無作為化試験(PARTNER 2A試験)のSAVR群との臨床転帰の比較を行った(本研究は助成を受けていない。2つの試験はEdwards Lifesciences社の助成による)。

 SAPIEN 3試験は、2014年2月17日~9月3日に米国とカナダの51施設で実施され、中等度リスクの重症大動脈弁狭窄症患者1,077例(88%[952例]が経大腿動脈アクセス)が、SAPIEN 3生体弁を用いたTAVRを施行する群に割り付けられた。今回は、術後1年時のデータの解析を行った。

 次いで、ベースラインの患者背景の試験間の差を考慮して事前に規定された傾向スコア解析を用いて、2011年12月23日~13年11月6日に米国とカナダの57施設で実施されたPARTNER 2A試験においてSAVR群に割り付けられた中等度リスクの患者944例と、SAPIEN 3試験のSAPIEN 3 TAVR群の患者の術後1年時の転帰を比較した。

 2つの試験は、臨床イベント評価委員会が共通で、心エコー検査の方法が同じであった。

 主要評価項目は、全死因死亡、脳卒中、中等度/重度の大動脈逆流の複合エンドポイントとした。傾向スコアを五分位法(Q1[スコアが最も低い20%]~Q5[最も高い20%])で解析し、非劣性(マージン:7.5%)および優越性の評価を行った。

TAVR群の非劣性と優越性を確認、中等度/重度弁逆流の転帰は不良
 ベースラインの患者背景は両群でほぼ同様であり、平均年齢はSAPIEN 3 TAVR群が81.9(6.6 SD)歳、PARTNER 2A SAVR群は81.6(6.76 SD)歳だった。NYHA心機能分類III/IV度がそれぞれ73%、76%含まれた。

 TAVR群で男性(62 vs.55%、p=0.002)および酸素吸入を要する慢性閉塞性肺疾患(5 vs.3%、p=0.02)が多かったのに対し、SAVR群ではSTSスコア中央値(5.2 vs.5.4%、p=0.0002)が高く、平均大動脈弁圧較差(46.1 vs.44.7mmHg、p=0.01)および左室駆出率(58.5 vs.55.4%、p<0.0001)が低く、中等度/重度の僧帽弁逆流症(9 vs.18%、p<0.0001)が多かった。

 入院期間中央値はTAVR群がSAVR群よりも短く(4[1~122] vs.9[1~77]日)、術後に帰宅した患者の割合が高かった(85 vs.46%)。

 SAPIEN 3試験のフォローアップ期間中央値1年時のTAVR群の全死因死亡率は7.4%(79/1,077例)であった(経大腿動脈アクセス例は6.5%)。脳卒中の発症率は4.6%(49例)で、約半数の2.3%(24例)が後遺障害を伴う脳卒中であった。

 1年時までに11%(119例)が手技関連または大動脈弁関連の理由で再入院したが、大動脈弁への再インターベンション(0.6%[6例])はまれだった。12%(132例)が新たに恒久的ペースメーカーの埋め込みを行った。また、心臓の症状は大きく改善し、1年時にはNYHA心機能分類I/II度が94%を占めた。

 TAVR後30日時の大動脈弁口面積および大動脈弁圧較差は1年時にも維持されていた。1年時の中等度以上の弁周囲逆流は1.5%のみにみられ、40%は軽度であった。30日時に弁周囲逆流がみられないか、わずかであった患者の1年時の死亡率は4.5%と、軽度の患者の6.4%とほぼ同等であった(p=0.2306)が、中等度/重度の患者の1年死亡率は13.3%であり、有意な差が認められた(p=0.0184)。

 傾向スコアの五分位解析(TAVR群:963例、SAVR群:747例)では、主要複合エンドポイントの発生率は、Q1(加重比率差[weighted proportion difference]:-14.5%)~Q5(同:-4.3%)のいずれにおいてもTAVR群が有意に良好であった。

 全体の加重比率差は-9.2%であり、TAVR群のSAVR群に対する非劣性(95%信頼区間[CI]:-12.4~-6、p<0.0001)および優越性(95%CI:-13.0~-5.4、p<0.0001)が確認された。死亡(-5.2%、-8.0~-2.4、p=0.0003)および脳卒中(-3.5%、-5.9~-1.1、p=0.0038)はTAVR群で良好であったが、中等度/重度の大動脈弁逆流(1.2%、0.2~2.2、p=0.0149)はSAVR群が優れた。

 著者は、「TAVRは、中等度リスクの患者においてSAVRよりも好ましい治療選択肢と考えられ、今後、適応が拡大する可能性がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 許 俊鋭( きょ しゅんえい ) 氏

東京都健康長寿医療センター センター長

J-CLEAR評議員