代償性肝硬変および臨床的に重要な門脈圧亢進症(CSPH)の患者では、β遮断薬の長期投与により代償不全(腹水、胃腸出血、脳症)のない生存が改善されることが、スペイン・バルセロナ自治大学のCandid Villanueva氏らが実施したPREDESCI試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年3月22日号に掲載された。肝硬変における臨床的な代償不全は予後不良とされる。CSPHは、肝静脈圧較差(HVPG)≧10mmHgで定義され、代償不全の最も強力な予測因子だという。
代償不全/死亡をプラセボと比較
本研究は、β遮断薬によるHVPG低下が、CSPHを伴う代償性肝硬変における代償不全や死亡のリスクを低減するかを検証する研究者主導の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験である(Spanish Ministries of Health and Economyの助成による)。
高リスクの静脈瘤のない代償性肝硬変およびCSPHで、HVPG≧10mmHgの患者(年齢18~80歳)を登録し、プロプラノロール静脈内投与によるHVPGの急性反応を評価した。レスポンダー(HVPGがベースラインから>10%低下)は、プロプラノロール(40~160mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に、非レスポンダーはカルベジロール(≦25mg/日)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは、肝硬変の代償不全(腹水、門脈圧亢進症関連の胃腸出血、顕性肝性脳症の発現と定義)または死亡とした。代償性肝硬変では、代償不全が発症する前の死亡は、ほとんどが肝臓とは関連がないため、肝臓非関連死を競合イベントとしたintention-to-treat解析が行われた。
主要エンドポイント:16% vs.27%、腹水の発生低下が主要因
2010年1月~2013年7月の期間に、スペインの8施設で201例が登録され、β遮断薬群に100例(平均年齢60歳、男性59%、プロプラノロール67例、カルベジロール33例)、プラセボ群には101例(59歳、63%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は37ヵ月だった。
主要エンドポイントの発生率は、β遮断薬群が16%(16/100例)と、プラセボ群の27%(27/101例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.26~0.97、p=0.041)。
この両群の差は、β遮断薬群で腹水の発生が少なかったためであり(9% vs.20%、0.42、0.19~0.92、p=0.0297)、胃腸出血(4% vs.3%、1.52、0.34~6.82、p=0.61)および顕性肝性脳症(4% vs.5%、0.92、0.40~2.21、p=0.98)には差はみられなかった。
全体の有害事象の発生は、両群でほぼ同等であった(β遮断薬群84% vs.プラセボ群87%)。治療に関連する可能性があると判定された有害事象は、それぞれ39%、30%、その可能性が高いと判定された有害事象は16%、15%であった。6例に重度の有害事象が認められ、β遮断薬群が4例、プラセボ群は2例だった。
著者は、「この非選択的β遮断薬の新たな適応は、患者転帰の改善や医療費の抑制に多大な効果をもたらし、今後、臨床ガイドラインに影響を及ぼす可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)