虚血性心筋症におけるCABG後の心筋生存能と生存転帰の関連/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2019/09/03

 

 心筋生存能(viability)は、虚血性心筋症患者における冠動脈バイパス術(CABG)の長期的な利益とは関連しないことが、米国・ニューヨーク医科大学のJulio A. Panza氏らが行ったSTICH試験のサブスタディーで明らかとなった。生存可能な心筋の存在は、治療法にかかわらず左室収縮能の改善をもたらすものの、その改善は長期生存とは関連しないことも示された。研究の成果は、NEJM誌2019年8月22日に掲載された。血行再建術の利益を受ける可能性のある虚血性心筋症患者の同定における、心筋生存能評価の役割に関しては、議論が続いている。さらに、左室機能の改善は血行再建の目標の1つだが、その後の転帰との関連は不明とされる。

CABGの生存転帰の改善効果を検証
 本研究は、STICH試験(多施設共同非盲検無作為化試験、患者登録期間2002~07年)の参加者1,212例のうち、心筋生存能の評価が行われた患者において、CABGと適切な薬物療法は薬物療法単独に比べ生存転帰が良好との仮説を検証するサブスタディーである(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。

 対象は、CABGを受ける予定で、左室駆出率が35%以下の冠動脈疾患患者601例(平均年齢60.7±9.4歳、男性87%)であった。単一光子放射断層撮影(SPECT)またはドブタミン負荷心エコー検査、あるいはこれら両方を用いて、心筋生存能を前向きに評価した。

 被験者は、CABG+薬物治療を受ける群(298例)または薬物治療のみを受ける群(303例)に無作為に割り付けられた。左室駆出率は、ベースライン時と4ヵ月のフォローアップ後に318例で測定された。

 主要エンドポイントは、全死因死亡とした。フォローアップ期間中央値は10.4年だった。

左室駆出率改善は、長期生存に重要な機序ではない
 全死因死亡の発生率は、CABG+薬物治療群(182/298例)が、薬物治療単独群(209/303例)よりも低かった(補正ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.60~0.90)。

 487例(81%)が心筋生存能を有すると判定され、残りの114例(19%)は心筋生存能がないと判定された。10.4年のフォローアップ期間中に391例(65%)が死亡し、全死因死亡率は、心筋生存能を有する患者(313/487例)とそれがない患者(78/114例)の間に差はなく(HR:0.81、95%CI:0.63~1.03、p=0.09)、関連のある予後因子で補正後も有意差は認めなかった(p=0.64)。心筋生存能の有無と、CABG+薬物治療群の薬物治療単独群を上回る有益な作用に、有意な交互作用はみられなかった(交互作用:p=0.34)。

 試験開始から4ヵ月以内に死亡した34例を除く567例のうち、ベースラインと4ヵ月後の双方で左室駆出率の評価を受けた318例(56%)における全死因死亡率は、左室駆出率が改善された患者(105/167例)と改善されなかった患者(91/151例)の間に差はなかった(補正後HR:1.00、95%CI:0.74~1.34)。心血管系の原因による死亡についても同様の結果であった。

 心筋生存能を有する患者では、CABG+薬物治療群および薬物治療単独群の双方で左室駆出率が有意に改善されたのに対し、心筋生存能のない患者ではいずれの群も左室駆出率は改善されなかった。また、全死因死亡および心血管系の原因による死亡に関して、心筋生存能の有無と、左室駆出率の改善の有無との間に有意な交互作用は観察されなかった。

 著者は「これらの知見は、心筋生存能がCABGによる長期の有益な効果と関連するとの仮説を支持しない」とし、「左室駆出率の改善は、心筋生存能を有する患者で起きる可能性が高く、それは血行再建術を受けた患者に限定されず、薬物または手術による治療を受けた虚血性心筋症患者の長期生存において重要なメカニズムではない」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)