2014~16年の期間に欧州医薬品庁(EMA)によって承認された新規がん治療薬に関して、その承認の基盤を形成する重要研究の多くは無作為化対照比較試験であったが、約半数は試験デザインや解析法に基づくバイアスのリスクが高いことが、米国・ハーバード大学医学大学院のHuseyin Naci氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年9月18日号に掲載された。EMAによって承認された新規がん治療薬の多くは無作為化対照比較試験による検討が行われ、治療効果の評価で“gold standard”と見なされているが、その試験デザインの特性やバイアスのリスク、報告の適切性の評価は十分には行われていないという。
無作為化対照比較試験を対象とする横断研究
研究グループは、2014~16年にEMAによって承認された新たながん治療薬に関する重要な無作為化対照比較試験(pivotal randomised controlled trial)に関して、その試験デザイン特性、バイアスリスク、報告の適切性の評価を目的とする横断研究を実施した。
主要評価項目は、試験デザイン特性(無作為化、比較対象、エンドポイント)、revised Cochrane toolを用いた5つのドメインから成るバイアスリスク(無作為化のプロセスに起因するバイアス、目的とする介入からの逸脱によるバイアス、アウトカムデータの欠落によるバイアス、アウトカムの測定、報告結果の選択)、報告の適切性(試験プロトコール情報の完全性と一貫性、出版、補足データ、臨床試験登録記録、regulatory document)とした。
OSを主要エンドポイントとした試験は26%のみ
2014~16年に、EMAは54件の重要研究に基づき32品目の新たながん治療薬を承認した。このうち、41件(76%)は無作為化対照比較試験であり、残りの13件(24%)は非無作為化試験(2件)または単群試験(11件)であった。2件以上の試験に基づいて承認を得たのは7品目だけだった。41件の無作為化対照比較試験のうち39件の論文が出版されており、今回の解析に含まれた。
主要エンドポイントまたは複合主要エンドポイントとして、全生存(overall survival)の評価を行った無作為化対照比較試験は10件(26%)のみで、代替指標として無増悪生存(progression free survival)を評価した試験が21件(54%)であり、残りの試験は奏効率(response rate)、無イベント生存(event free survival)、安全性のエンドポイントを評価していた。
全体として、19件(49%)の無作為化対照比較試験が、主要アウトカムに関してバイアスのリスクが高いと判定された。高バイアスリスク判定のドメインとして多かったのは、アウトカムデータの欠落(10件)とアウトカムの測定(7件)に関する懸念であった。
主要エンドポイントとして全生存の評価を行った無作為化対照比較試験は、有効性の代替エンドポイントを評価した試験に比べ、高バイアスリスクの試験が少なかった(10件中2件[20%]vs.29件中16件[55%])。
regulatory documentと文献の情報を別個に検討したところ、8件(21%)の無作為化対照比較試験でバイアスのリスク判定が一致せず、双方の情報源における報告の不適切性が反映されていた。また、規制当局は、10品目(31%)の薬剤に関して、バイアスリスク評価で指摘されたドメインとは別に、付加的な限界を特定した。これらの限界には、臨床的利益の大きさ、不適切な比較対象、非優先的なエンドポイントが含まれたが、文献では限界(limitation)として開示されていなかった。
著者は、「これらの高いバイアスリスクは、がんの臨床試験の複雑さゆえに、ある程度は避けられない可能性がある」と指摘し、「政策立案者や研究者、臨床医は、規制当局による決定を支持する重要試験におけるバイアスのリスクと、新たながん治療が患者に意義のある利益をどの程度もたらすかを慎重に検討する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)