糖尿病の母親の子供は、小児期から成人期初期に、非糖尿病の母親の子供に比べ早発性の心血管疾患(CVD)の発生率が高く、とくに母親がCVDや糖尿病性合併症を併発している場合はCVDリスクがさらに増加することが、デンマーク・オーフス大学のYongfu Yu氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年12月4日号に掲載された。最近の数10年間で、世界的に子供や若年成人のCVD有病率が高くなっている。妊娠前および妊娠中の母親の糖尿病は、子供のメタボリック症候群や先天性心疾患のリスク上昇と関連するとされるが、母親の糖尿病への出生前の曝露が、生命の初期段階にある子供の早発性CVDに影響を及ぼすか否かは知られていないという。
糖尿病妊婦の子供を40年追跡したコホート研究
研究グループは、妊娠前または妊娠中に診断された母親の糖尿病と、その後40年間における子供の早発性CVDの関連を評価する目的で、住民ベースのコホート研究を行った(デンマーク・Lundbeck Foundationなどの助成による)。
データの収集には、デンマークの全国的な健康関連の登録システムを用いた。1977~2016年の期間に、デンマークで出生し、先天性心疾患のない243万2,000例の子供が解析の対象となった。追跡は出生時に開始され、CVDの初回診断、死亡、海外移住、2016年12月31日のうち、いずれかが最も早く到来するまで継続された。
曝露因子は、母親の糖尿病合併妊娠(1型糖尿病[2万2,055例]、2型糖尿病[6,537例])と妊娠糖尿病(2万6,272例)であった。
主要アウトカムは、病院の診断によって定義された早発性CVD(先天性心疾患を除く)とし、母親の糖尿病と子供の早発性CVDリスクとの関連を評価した。また、Cox回帰を用いて、この関連への、母親のCVDおよび糖尿病性合併症の既往歴の影響を検討した。
糖尿病単独で29%、合併症併発で60%、CVD併発で73%増加
5万4,864例(2.3%)の子供が、母親の糖尿病合併妊娠(1型糖尿病0.9%、2型糖尿病0.3%)または妊娠糖尿病(1.1%)に曝露していた。40年の追跡期間中に、糖尿病の母親の子供1,153例と、非糖尿病の母親の子供9万1,311例が、CVDと診断された。
糖尿病の母親の子供は、非糖尿病の母親の子供に比べ、早発性CVDの発生率が29%高かった(ハザード比[HR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.21~1.37)。母親の糖尿病に曝露しなかった子供の40歳時の累積CVD発生率は13.07%(12.92~13.21)であった。曝露と非曝露の子供の累積CVD発生率の差は4.72%(2.37~7.06)だった。
また、同胞コホートで近親デザイン(sibship design)の解析(共通の遺伝的、家族的な背景因子に起因する未調整の交絡を評価)を行ったところ、マッチングを行っていないコホート全体の主解析とほぼ同様の結果(1.26、1.18~1.35)であった。
糖尿病合併妊娠(HR:1.34、95%CI:1.25~1.43)および妊娠糖尿病(1.19、1.07~1.32)のいずれにおいても、子供のCVDは増加していた。また、個々の早発性CVDの発生率の増加の割合は多様であり、増加率の高かったCVDとして、心不全(1.45、0.89~2.35)、高血圧性疾患(1.78、1.50~2.11)、深部静脈血栓症(1.82、1.38~2.41)、肺塞栓症(1.91、1.31~2.80)が挙げられた。
CVD発生率の増加は、母親の糖尿病の種類にかかわらず、小児期から、40歳までの成人期初期の個々の年齢層で認められた。
CVD発生率の増加は、糖尿病合併妊娠のみの母親の子供(HR:1.31、95%CI:1.16~1.48)に比べ、糖尿病性合併症を併発した母親の子供(1.60、1.25~2.05)で、より顕著であった(合併症併発の非併発に対するHR:1.22、95%CI:0.92~1.62)。また、母親が糖尿病とともにCVDを併発していた場合、子供の早発性CVDの発生率はさらに高く(1.73、1.36~2.20)、これは併発CVDの付加的影響であったが、糖尿病とCVDの交互作用に起因するものではなかった(交互作用の相乗スケールのp=0.94)。
著者は、「出産可能年齢の女性における糖尿病の予防、スクリーニング、治療は、女性の健康の改善だけでなく、子供の長期的なCVDリスクの抑制においても重要と考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)