末梢動脈疾患(PAD)患者への在宅歩行運動療法において、低強度の歩行運動は、高強度の歩行運動に比べ、12ヵ月後の6分間歩行距離の改善について有意に効果が低く、運動をしない場合と比べて有意な差はなかった。米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが、305例を対象に行った無作為化比較試験の結果を報告した。運動能力の低下したPAD患者には、監督下で行う虚血性下肢症状を誘発する高強度の歩行運動が初回療法とされているが、そのアドヒアランスは不良であることが知られている。著者は、「今回の結果は、PAD患者の客観的測定に基づく歩行能力改善のための低強度の在宅歩行運動は支持されないことを示すものであった」と述べている。JAMA誌2021年4月6日号掲載の報告。
最長50分/回の歩行運動を週5回実施、強度と時間は自己記録
研究グループは2015年9月25日~2019年12月11日に、米国内4ヵ所の医療機関を通じ、PADの患者305例を対象に試験を開始し、2020年10月7日まで追跡した。
被験者は無作為に3群に割り付けられ、(1)在宅で行う低強度(虚血性下肢症状を誘発しないペース)の歩行運動(低強度運動群、116例)、(2)在宅で行う高強度(中等症~重症の虚血性下肢症状を誘発するペース)の歩行運動(高強度運動群、124例)、(3)運動なし(対照群、65例)をそれぞれ12ヵ月間実施した。歩行運動は、監督者なしで1回最長50分を週5回実施。被験者に加速度計を装着してもらって運動強度と時間を記録した。
記録データは12ヵ月間にわたって週1回、コーチが被験者に電話をして確認。その際にコーチは被験者が指示どおりの運動を行うよう助言をした。対照群にも12ヵ月間にわたって週1回、電話で教育的コミュニケーションが行われた。
主要アウトカムは、12ヵ月時点における6分間歩行距離のベースラインからの変化で、臨床的意義のある最低変化は8~20mとした。
低強度vs.高強度、12ヵ月後の6分歩行距離改善幅の差は40m
無作為化を受けた被験者305例の平均年齢は69.3(SD 9.5)歳、女性47.9%、黒人59.3%だった。12ヵ月の追跡期間完遂者は250例(82%)だった。
6分間歩行距離の変化は、低強度運動群がベースライン332.1mから12ヵ月時327.5mで平均-6.4m(95%信頼区間[CI]:-21.5~8.8、p=0.34)、高強度運動群は338.1mから371.2mで平均34.5m(同:20.1~48.9、p<0.001)であり、群間差は-40.9m(97.5%CI:-61.7~-20.0、p<0.001)だった。
対照群の同変化は328.1mから317.5mで平均-15.1m(95%CI:-35.8~5.7、p=0.10)であり、低強度運動群との比較において有意差はなかった(群間差:8.7m、97.5%CI:-17.0~34.4、p=0.44)。
有害事象は184件報告され、1人当たりの同発現頻度は、低強度運動群が0.64、高強度運動群が0.65、非運動群が0.46だった。試験参加に関連した重篤有害事象の発現は各群で1例ずつ報告された。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)