新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを接種した成人では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のデルタ変異株(B.1.617.2)が優勢となった時期には、ワクチンの感染防御効果が低下しており、変異株別の感染防御効果の違いとは別個に、mRNAワクチンの有効率は経時的に減少する可能性があることが、米国疾病予防管理センターのAmadea Britton氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2022年2月14日号に掲載された。
米国のtest-negativeデザインの症例対照研究
本研究は、デルタ変異株が優勢となる以前の時期(前デルタ期:2021年3月13日~5月29日)と、その後の優勢となった時期(デルタ優勢期:2021年7月18日~10月17日)で、症候性SARS-CoV-2感染症とワクチン接種以降の日数の関連の評価を目的とする、test-negativeデザインを用いた症例対照研究である(米国疾病予防管理センターの助成を受けた)。
解析には、米国のIncreasing Community Access to Testing(ICATT)の6,884のCOVID-19検査施設のデータが用いられた。これらの検査施設で、2021年3月13日~10月17日の期間に、COVID-19様疾患を呈する患者181万4,383例が核酸増幅検査(NAAT)を受けた(20歳以上:163万4,271例、12~19歳:18万112例)。
ワクチンは、2つのmRNAワクチン(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]、mRNA-1273[Moderna製]、2回接種で完全接種)と、1つのアデノウイルスベクターワクチン(Ad26.COV2.S[Janssen/Johnson&Johnson製]、1回接種で完全接種)の3種が使用された。ワクチン接種者は、検査の14日以上前に完全接種を終了した集団が解析に含まれた。
主要アウトカムは、症候性感染症とワクチン接種の関連とされ、スプライン法に基づく多変量ロジスティック回帰分析によって算出されたオッズ比(OR)で評価された。
12~19歳も成人と同様の結果
解析に含まれた181万4,383例(20~44歳59.9%、12~19歳9.9%、女性58.9%、白人71.8%)のうち、39万762例(21.5%)が検査陽性(症例群)で、142万3,621例(78.5%)は検査陰性(対照群)であった。
20歳以上の成人の完全接種者は、BNT162b2ワクチンが30.6%、mRNA-1273ワクチンが19.9%、Ad26.COV2.Sワクチンが4.5%で、45.0%は未接種者であった。
20歳以上では、BNT162b2ワクチンの2回目接種後14~60日の症候性感染症とワクチン完全接種のOR(初期OR)は、前デルタ期が0.10(95%信頼区間[CI]:0.09~0.11)と、デルタ優勢期の0.16(0.16~0.17)と比較して小さく、接種後の時間の経過(14~111日)とともに上昇していた(ORの月ごとの変化 前デルタ期:0.04[95%CI:0.02~0.05]、デルタ優勢期:0.03[0.02~0.03])。これは、ワクチン接種以降に、症候性感染症とワクチン完全接種の関連性が経時的に減弱したことを示す。
同様に、mRNA-1273ワクチンの初期ORは、前デルタ期の0.05(95%CI:0.04~0.05)からデルタ優勢期には0.10(0.10~0.11)へと上昇し、接種以降に経時的(14~266日)な増加が認められた(ORの月ごとの変化 前デルタ期:0.02[95%CI:0.005~0.03]、デルタ優勢期:0.03[0.03~0.04])。
また、成人でのAd26.COV2.Sワクチンの初期ORは、前デルタ期が0.42(95%CI:0.37~0.47)、デルタ優勢期は0.62(0.58~0.65)であったが、接種以降に、経時的に有意な増加はみられなかった。
一方、12~19歳の完全接種者は、BNT162b2ワクチンが33.7%、mRNA-1273ワクチンが3.7%、Ad26.COV2.Sワクチンが1.0%で、61.5%は未接種者だった。
12~15歳では、BNT162b2ワクチンの症候性感染症とワクチン完全接種の初期ORは、デルタ優勢期が0.06(95%CI:0.05~0.06)で、接種後14~127日に、月ごとに0.02(95%CI:0.01~0.03)ずつ上昇し、16~19歳では、初期ORはデルタ優勢期が0.10(0.09~0.11)で、接種後14~231日に、月ごとに0.04(0.03~0.06)上昇した。16~19歳におけるmRNA-1273ワクチンのデルタ優勢期の初期ORは0.06(0.04~0.08)、14~203日の月ごとのOR上昇は0.03(0.02~0.05)であり、Ad26.COV2.Sワクチンの初期ORはデルタ優勢期が0.46(0.30~0.62)で、経時的な変化はみられなかった。
著者は、「これらの知見は、ワクチンの変異株別の感染防御効果の違いとは別個に、mRNAワクチンの有効率は時間の経過とともに着実に減少する可能性があるとの見解と一致する」としている。
(医学ライター 菅野 守)