左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(HFpEF)を呈する肥満の患者において、GLP-1受容体作動薬セマグルチドはプラセボと比較して、症状と身体的制限を軽減するとともに、運動機能を改善し、減量効果をもたらすことが、米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMikhail N. Kosiborod氏らが実施した「STEP-HFpEF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年8月25日号で発表された。
13ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験
STEP-HFpEF試験は、日本を含む13ヵ国96施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年3月~2022年3月の期間に患者の登録を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。
年齢18歳以上、LVEF 45%以上でBMI30以上の心不全患者を、セマグルチド(2.4mg、週1回)またはプラセボを52週間にわたり皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要エンドポイントは、23項目の質問から成るカンザスシティ心筋症質問票の臨床要約スコア(KCCQ-CSS、スコア範囲:0~100点、点数が高いほど症状と身体的制限が軽度)と体重のベースラインから52週までの変化であった。
529例を登録し、セマグルチド群に263例、プラセボ群に266例を割り付けた。全体のベースラインの年齢中央値は69歳、女性が56.1%、白人が95.8%であり、体重中央値は105.1kg、BMI中央値は37.0(66.0%が35以上)、KCCQ-CSS中央値は58.9点、LVEF中央値は57.0%であった。
KCCQ-CSSの改善度は8点近く高い、重篤な有害事象も少ない
KCCQ-CSSのベースラインから52週までの平均変化量は、プラセボ群が8.7点であったのに対し、セマグルチド群は16.6点と有意に優れた(推定群間差:7.8点、95%信頼区間[CI]:4.8~10.9、p<0.001)。また、体重の平均変化率は、プラセボ群の-2.6%と比較して、セマグルチド群は-13.3%と減量効果が有意に良好だった(推定群間差:-10.7ポイント、95%CI:-11.9~-9.4、p<0.001)。
6分間歩行距離の変化量は、プラセボ群の1.2mに比べ、セマグルチド群は21.5mであり、有意に延長した(推定群間差:20.3m、95%CI:8.6~32.1、p<0.001)。
階層法を用いた複合エンドポイント(全死因死亡、心不全イベント、KCCQ-CSSのベースラインからの変化量がそれぞれ15点、10点、5点以上、6分間歩行距離のベースラインからの変化量が30m以上)のwin比(win ratio)の解析では、プラセボ群に比べセマグルチド群でwin(勝利)の数が多かった(win比:1.72、95%CI:1.37~2.15、p<0.001)。
また、C反応性蛋白(CRP)値の平均変化率は、プラセボ群の-7.3%に比べ、セマグルチド群は-43.5%と有意に改善した(推定比:0.61、95%CI:0.51~0.72、p<0.001)。
重篤な有害事象は、セマグルチド群が35例(13.3%)、プラセボ群は71例(26.7%)で発現した(p<0.001)。各群6例ずつが、重篤な有害事象により投与を中止した。全有害事象による投与中止は、セマグルチド群が35例、プラセボ群は14例だった。
著者は、「KCCQ-CSS、体重減少、6分間歩行距離の改善度が、いずれも大きいことは注目に値する。これらの結果を先行研究の成果と統合すると、セマグルチドは肥満者のHFpEFの管理において、価値のある治療アプローチとなる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)