目まぐるしく進歩する、肺がん治療

提供元:ケアネット

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公開日:2015/11/05

 

 2015年10月30日都内にて、「肺癌分子標的治療の変遷と最新治療」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。演者である中西 洋一氏(九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学分野 教授)は、肺がん治療の変遷を中心に講演。免疫チェックポイント阻害薬の登場により、免疫療法が薬物療法の表舞台に立とうとしている現状に触れ、「将来的には判定方法や副作用への対応など、学会、国の方針自体を整備していく必要がある」と述べた。

 以下、セミナーの内容を記載する。

「分子標的治療」そして、「免疫療法」へ
 肺がんによる死亡は、2012年時点で年間7万1,518人と急増している。その背景にある要因の1つとして、若年女性の喫煙率上昇が挙げられていたことからも明らかであるように、これまで肺がんといえば、タバコに代表される多段階発がん説が基本であった。
 しかし、近年たった1つの遺伝子異常が原因で起こる「driver gene mutation」が判明した。これを機にALKやEGFRといった遺伝子の異常を調べて、薬剤を選択する時代が到来。driver oncogene変異陽性患者の予後やQOLが改善したのは記憶に新しい。
 さらに、がん免疫を蘇らせるPD-1阻害薬やPD-L1阻害薬といった「免疫チェックポイント阻害薬」の登場で、「免疫療法」が新しいアプローチとして脚光を浴びつつある。

「免疫療法」が薬物療法の表舞台に
 従来の抗がん剤治療は、がん細胞をターゲットにして攻撃力を高めてきた。これに対し、「免疫チェックポイント阻害薬」のアプローチは異なる。その作用は免疫力の向上だ。
 通常、がん組織において免疫細胞は、がん細胞が伝達する「私は味方だ」という偽のシグナルにより攻撃命令を止めていた。つまり、「がんにより免疫が眠らされた」状態にあった。免疫チェックポイント阻害薬であるPD-1阻害薬やPD-L1阻害薬は、このシグナルを解除し、がん細胞を「敵」と正しく判断させて、がん細胞を攻撃する。つまり免疫力の賦活化が作用のポイントとなる。
 免疫チェックポイント阻害薬は、複数の試験で有効中止に至るなど、大きな治療効果が期待されている。免疫療法が薬物療法の表舞台に立とうとしているのだ。

今後の治療は? 学会、国の方針策定が必要
 講演後のディスカッションでは、この免疫療法に関する質問が多数寄せられた。免疫チェックポイント阻害薬は全例調査の対象であり、がん拠点病院など、未知の副作用が起こった場合に他診療科と連携可能な病院が主な拠点となりそうだ。中西氏は「現時点で皮膚科を中心に投与されているが、今後の適応拡大に備え、副作用を積極的に拾うことや、院内に専門チームを設置するといった他診療科にわたる活動が必要だ」と述べた。実際に九州大学では、専門チームの導入にむけた活動が進んでいるようだ。

 また、「PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬との有効性、安全性の差は?」との質問には、中西氏、および2剤の開発を手掛けるアストラゼネカ株式会社 専務の益尾氏の両名が回答した。
 益尾氏は「2剤とも検討段階にあり、優劣は現時点では判断しづらい。PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬同士の併用やPD-L1阻害薬+他抗がん剤での併用など、さまざまな検討を行っている」とコメントした。中西氏は、「理屈で言うとPD-1抑制のほうが、がん細胞側のPD-L1抑制よりは危ないようにも思うが、各薬剤の用量設定、反応の強さで異なるため一概には判断できない」と述べた。また、PD-1やPD-L1の発現基準や判定方法がメーカー間でも異なっているため、フラットな状況下で比較できないのが現状課題、としたうえで「共通の判定基準を学会、国としても整えていかなければいけない」とコメントした。

編集後記
 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場など、肺がん治療は目まぐるしい発展と進歩を遂げている。しかし、新しい治療に合わせて社会インフラを整備することも必要とされそうだ。
 本講演を行った中西氏が委員長を務める「肺がん医療向上委員会 」では、チーム医療の推進や肺がん患者の知識向上を目指した活動を継続している。われわれも患者さんに早期にベストな医療がもたらされるよう、メディアとして活動を応援していきたい。

肺がん医療向上委員会はこちら

(ケアネット 佐藤 寿美)