2018年5月18日ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、ノルディトロピン(一般名:ソマトロピン)承認30周年を記念し、プレスセミナーを開催した。
セミナーでは、成長ホルモン治療の現状、問題点とともに医療者と患者・患者家族が協働して治療の意思決定を行う最新のコミュニケーションの説明が行われた。
成長ホルモン治療でアドヒアランスを維持することは難しい
セミナーは、「成長ホルモン治療の Shared Decision Making ~注射デバイスの Patient Choiceと Adherence」をテーマに、高澤 啓氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)を講師に迎え行われた。
現在、成長ホルモン(以下「GH」と略す)治療は、保険適用の対象疾患としてGH分泌不全性低身長、ターナー症候群、ヌーナン症候群、プラダー・ウィリー症候群、慢性腎不全、軟骨異栄養症(ここまでが小児慢性特定疾患)、SGA性低身長がある。これらは未診断群も含め、全国で約3万人の患児・患者が存在するという。診断では、通常の血液、尿検査のスクリーニングを経て、負荷試験、MRI、染色体検査などの精密検査により確定診断が行われる。そして、治療ではソマトロピンなどのGH治療薬を1日1回(週6~7回)、睡眠前に本人または家族が皮下注射している。
GH治療の課題として、治療が数年以上の長期間にわたることで患者のアドヒアランスが低下し、維持することが難しいとされるほか、治療用の注射デバイスが現状では医師主導で選択されていることが多く、患者に身体的・精神的負担をかけることが懸念されているという。
患者の怠薬を防ぐ切り札
これらの課題を解決する手段として提案されるのが「Shared Decision Making(協働意思決定)」(以下「SDM」と略す)だという。
SDMとは、「意思決定の課題に直面した際に医師と患者が、evidenceに基づいた情報を共有し、選択肢の検討を支援するシステムにのっとり、情報告知に基づいた選択を達成する過程」と定義され、従来のインフォームドコンセントと異なり、患者の視点が医療者に伝わることで医療の限界や不確実性、費用対効果の共有が図られ、治療という共通問題に向き合う関係が構築できるという。
実際この手法は、欧米ですでに多数導入され、専任のスタッフを設置している医療機関もあり、SDMがアドヒアランスに与える影響として、患者の治療意欲の向上、怠薬スコアの改善といった効果も報告されているという
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日本型SDMの構築の必要性
実際に同氏が、川口市立医療センターで行ったSDM導入研究(n=46)を紹介。その結果として、「患者が自己決定することで(1)患者家族の理解および治療参加が促進された、(2)アドヒアランスの維持に寄与した、(3)治療効果を促進する可能性が示唆された」と報告した。また、「SDMによる患者の自己決定は、意思疎通の過程で有用であり、治療への家族参加や自己効力感を高めうるだけでなく、簡便な手法ゆえ施設毎での応用ができる」と意義を強調した。
最後に同氏は、今後のわが国での取り組みについて「SDMの有効性から必要性への啓発、サポートする体制作り、日本式のSDMの在り方の構築が求められる」と展望を語り、セミナーを終了した。
(ケアネット 稲川 進)