ブレークスルー感染者においてもコロナ罹患後症状(いわゆる後遺症、long COVID)が発現するか、米国退役軍人のコホート研究で調査した結果、急性期以降の死亡やコロナ罹患後症状発現のリスクがあることが確認されたが、ワクチン未接種の感染者より発現リスクが低いことが示された。本結果は、Nature Medicine誌オンライン版2022年5月25日号に掲載されている。
本調査では、2021年1月1日~10月31日の期間での退役軍人保健局の利用者で、ブレークスルー感染(BTI)群(3万3,940例)と、コロナ既往歴のない同時期対照群(498万3,491例)ほか、ワクチン未接種の感染群(11万3,474例)や、季節性インフルエンザ入院群(1万4,337例)など複数のコホートを構成し、2つの尺度でリスクを比較検証した。1つは死亡もしくは特定の症状発現(肺、心血管、血液凝固、消化器、腎臓、精神、代謝、筋骨格など)の補正ハザード比(HR)、もう1つは、BTI群におけるSARS-CoV-2検査陽性後6ヵ月間の各アウトカムについて1,000例当たりの補正超過負荷(excess burden)を推定した。
BTI群は、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチン初回接種から14日以上、もしくはファイザー製またはモデルナ製ワクチン2回接種から14日以上経過し、コロナ検査陽性後30日間生存した人が対象となる。ワクチン接種完了者のうちBTIの割合は1,000例当たり10.60例(95%信頼区間[CI]:10.52~10.70)だった。
主な結果は以下のとおり。
・BTI群は同時期対照群と比べて死亡リスクが上昇しており(HR:1.75、95%CI:1.59~1.93)、BTI後6ヵ月の患者1,000例当たりの超過負荷が13.36例(95%CI:11.36~15.55)増加することが示された。
・BTI群は同時期対照群と比べて、コロナ罹患後症状と考えられる症状を1つ以上経験するリスクが上昇した(HR:1.50、95%CI:1.46~1.54)。超過負荷はBTI後6ヵ月の患者1,000例当たり122.22例(95%CI:115.31~129.24)増加。
・BTI群は同時期対照群と比べて、罹患後症状のリスクが次のように上昇した。
肺機能障害HR:2.48(95%CI:2.33~2.64)、超過負荷:39.82(95%CI:36.83~42.99)
心血管障害HR:1.74(95%CI:1.66~1.83)、超過負荷:43.94(95%CI:39.72~48.35)
血液凝固障害HR:2.43(95%CI:2.18~2.71)、超過負荷:13.66(95%CI:11.95~15.56)
疲労HR:2.00(95%CI:1.82~2.21)、超過負荷:15.47(95%CI:13.21~17.96)
消化器障害HR:1.63(95%CI:1.54~1.72)、超過負荷:37.68(95%CI:33.76~41.80)
腎臓障害HR:1.62(95%CI:1.47~1.77)、超過負荷:16.12(95%CI:13.72~18.74)
精神障害HR:1.46(95%CI:1.39~1.53)、超過負荷:45.85(95%CI:40.97~50.92)
代謝障害HR:1.46(95%CI:1.37~1.56)、超過負荷:30.70(95%CI:26.65~35.00)
筋骨格系障害HR:1.53(95%CI:1.42~1.64)、超過負荷:19.81(95%CI:16.56~23.31)
神経系障害HR:1.69(95%CI:1.52~1.88)、超過負荷:11.60(95%CI:9.43~14.01)
・BTI群において、コロナ急性期に入院していない人よりも、入院した人、さらにICUに入院した人のほうが、罹患後症状のリスクが有意に上昇していた。
・BTI群はワクチン未接種の感染群と比べて、死亡リスクが低く(HR:0.66、95%CI:0.58~0.74)、超過負荷は-10.99(95%CI:-13.45~-8.22)であった。
・BTI群はワクチン未接種の感染群と比べて、罹患後症状のリスクが低く(HR:0.85、95%CI:0.82~0.89)、超過負荷は-43.38(95%CI:-53.22~-33.31)であった。
・BTI群はワクチン未接種の感染群と比べて、調査した47の罹患後症状のうち24のリスクを低下させた。
・BTI群は季節性インフルエンザ入院群と比べて、死亡リスクが高く(HR:2.43、95%CI:2.02~2.93)、超過負荷は43.58(95%CI:31.21~58.26)であった。
・BTI群は季節性インフルエンザ入院群と比べて、罹患後症状のリスクが高く(HR:1.27、95%CI:1.19~1.36)、超過負荷は87.59(95%CI:63.83~111.40)であった。
研究グループはこの結果に対して、ワクチン接種は感染後の死亡と罹患後症状のリスクを部分的にしか減少させることができないため、SARS-CoV-2感染による長期的な健康への影響のリスクを軽減させるためには、ワクチンだけではなく予防対策が必要であるとしている。
(ケアネット 古賀 公子)