肥満が2型糖尿病や心血管疾患などの重篤な合併症と関連することは知られているが、肥満が悪性腫瘍の危険因子であることも明らかになってきた。肥満患者へ肥満手術を行うことでがんの発症リスクが低下するとされるが、新たな研究により、肥満手術が造血器腫瘍のリスクを低下させることが示された。スウェーデン・ヨーテボリ大学のKajsa Sjoholm氏らによる本研究の結果は、Lancet Healthy Longevity誌2023年10月号に掲載された。
本試験では、前向き対照Swedish Obese Subjects研究で、肥満手術を受けた人と通常の治療を受けた人の全死亡率を比較した。参加者はスウェーデン全土で募集され、組み入れ基準は年齢37~60歳、検査前または検査時のBMIが男性34、女性38以上であった。主なアウトカムは造血器腫瘍の発生率と死亡率で、悪性リンパ腫、骨髄腫、骨髄増殖性新生物、急性および慢性白血病を含む造血器腫瘍のイベントは、Swedish Cancer Registryから収集した。
主な結果は以下のとおり。
・1987年9月1日~2001年1月31日に計4,047例の肥満症患者(肥満手術群:2,007例、標準治療群:2,040例)が登録された。女性が多く(71%)、肥満手術群は胃バイパス術(266例)、胃バンディング術(376例)、垂直胃形成術(1,365例)を受け、標準治療群はプライマリ・ヘルスケア・センターで肥満に対する標準治療を受けたが、生活習慣への高度なアドバイスや専門的治療は受けなかった。
・追跡期間中央値は肥満手術群24.4年、標準治療群22.7年であった。肥満手術群は2年後の追跡調査で体重が平均28.5kg減少し、10年後は20.8kg、15年後は21.2kg減少していた。標準治療群の体重変化は小さく、増減とも平均3kgを超えなかった。
・造血器腫瘍と診断されたのは肥満手術群34例、標準治療群51例(ハザード比[HR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.39~0.92、p=0.020)、うち死亡例は肥満手術群3例、標準治療群13例であった(HR:0.22、95%CI:0.06~0.76、p=0.017)。
・肥満手術は悪性リンパ腫の発生率低下とも関連していた(HR:0.45、95%CI:0.23~0.88、p=0.020)。
・男女間で治療効果に有意差が認められ、女性では肥満手術は造血器腫瘍の発生率低下と関連したが(HR:0.44、95%CI:0.26~0.74、p=0.002)、男性では関連しなかった(HR:1.35、95%CI:0.58~3.17、p=0.489)(交互作用のp=0.031)。
研究者らは、「肥満手術は、とくに女性において、造血器腫瘍の発生率減少と関連していた。がん予防の分野で働く医療提供者および政策立案者は、肥満の人々に対する1次予防として肥満手術を考慮すべきである」としている。
(ケアネット 杉崎 真名)