便秘を緩和するために下剤を日常的に使用していると、後年の認知症発症リスクが高まる可能性があるとする研究結果が、「Neurology」に2月22日掲載された。複数のタイプの下剤を併用する人や、浸透圧性下剤(浸透圧を利用して大腸内の水分を増やし、便を柔らかくして排便を促す)を使用している人は、特にリスクが高いという。これまでの研究では、睡眠補助薬やアレルギー薬などのOTC医薬品と認知症との関連が報告されているが、下剤との関連が指摘されたのは今回が初めて。
研究論文の著者の一人で、中国科学院深セン先進技術研究院(中国)准教授のFeng Sha氏は、「しかし、現時点で慌てることはない。この結果を基に何らかの行動を起こす前に、さらに研究を重ねて、結果を確かめる必要がある」と述べている。同氏はさらに、絶対リスクが小さいことや、この研究自体が下剤の使用により認知症リスクが上昇する機序を明らかにするものではないとも述べている。ただし研究グループは、機序に関しての仮説を立てている。それは、下剤の常用により腸内細菌叢が変化することで、腸から脳への神経伝達が影響を受けたり、あるいは脳に影響を及ぼす可能性のある腸内毒素の産生が増えたりするのではないかというものだ。さらに、便秘薬は脳腸相関を妨害し、一部の微生物を脳に到達させてしまう可能性もあるという。
今回の研究では、UKバイオバンクが実施している研究プロジェクトに参加した、認知症のない40〜69歳の成人50万2,229人(平均年齢56.5歳、女性54.4%)の下剤の使用状況について検討した。試験開始時に、過去4週間、市販の下剤をほぼ毎日使用したことを報告した場合を「下剤の常用」と定義したところ、3.6%(1万8,235人)がこれに該当した。
平均9.8年の追跡期間中に認知症を発症した人の割合は、下剤を常用していない人では0.4%(1,969人)だったが、下剤を常用していた人では1.3%(218人)であった。多変量解析の結果、家族歴などのリスク因子を考慮しても、下剤を常用する人ではあらゆる原因による認知症の発症リスクが51%、血管性認知症の発症リスクが65%高いことが明らかになった。アルツハイマー病に関しては、リスク上昇は認められなかった。
あらゆる原因による認知症と血管性認知症の発症リスクに関しては、使用する下剤の種類が多いほどリスクが増加していた(1種類のみの人では28%のリスク増加、2種類以上を併用していた人では90%のリスク増加)。1種類のみを使用していた人の中では、浸透圧性下剤を使用していた人でのみ、あらゆる原因による認知症と血管性認知症の発症リスクが統計学的に有意に上昇していた〔ハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ、1.64(1.20〜2.24)、1.97(1.04〜3.75)〕。
Sha氏は、「下剤の常用は勧められない」と述べ、「便秘の多くは、水分や食物繊維の摂取量と運動量を増やすなどの生活習慣の改善によって緩和できる。このような対策は脳の健康にも良い」と指摘する。
研究グループは今後の研究で、下剤の種類別に詳しく検討するほか、下剤と認知症の関連の原因となる機序を特定したいと話している。さらに、下剤と他の慢性疾患との関連についても調べているところだという。
アルツハイマー病創薬財団(ADDF)のYuko Hara氏は、「下剤が脳に有害な可能性もあるが、便秘で下剤を使用するような人は、果物や野菜の摂取量が十分ではないことも考えられる」と指摘。健康的な食事は心臓や脳にも有益であると助言している。また、米レノックス・ヒル病院のAditya Sreenivasan氏も、便秘の治療として、まずは食事やサプリメントによる食物繊維の摂取、適度な水分摂取と運動を試し、改善されなければ医師に相談するよう勧めている。
[2023年2月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら