留置1年後における生体吸収性エベロリムス溶出スキャフォールド(BVS、Absorb)の有害事象の発現状況は、コバルトクロム合金製エベロリムス溶出ステント(CoCr-EES、Xience)とほぼ同等との研究結果が、米国・コロンビア大学のGregg W Stone氏らによってLancet誌オンライン版2016年1月26日号で報告された。BVSは、薬剤溶出金属製ステントに比べ経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の長期的なアウトカムを改善する可能性が指摘されているが、これらのデバイスの1年後の安全性や有効性は知られていない。
4つの直接比較試験のデータを統合解析
研究グループは、留置1年後のBVSの相対的なリスクとベネフィットの特徴を明らかにするために、CoCr-EESと比較した4つの無作為化非劣性試験(ABSORB II、ABSORB Japan、ABSORB China、ABSORB III)のメタ解析を行った(Abbott Vascular社の助成による)。
4試験全体で、北米、欧州、アジア太平洋地域の301施設が参加し、安定冠動脈疾患および安定化した急性冠症候群の3,389例が登録された。BVS群に2,164例、CoCr-EES群には1,225例が割り付けられた。
主要評価項目は、患者指向の複合エンドポイント(全死因死亡、全心筋梗塞、全再血行再建術)およびデバイス指向の標的病変不全の複合エンドポイント(心臓死、標的血管関連心筋梗塞、虚血による標的病変再血行再建術)であった。
年齢中央値は両群とも63歳、男性はBVS群が73%、CoCr-EES群は72%であった。全体で、糖尿病を有する患者が約30%、不安定狭心症または直近の心筋梗塞が約31%にみられ、約3分の2の患者がAHA/ACC分類のB2またはC型、4分の1強が中等度~重度の石灰化、おおよそ3分の1が分枝部の病変だった。
2試験のデータを追加しても治療効果に変化なし
3,355例(99%)が、1年間のフォローアップを完遂した。
患者指向複合エンドポイントの発生率は、BVS群が11.9%、CoCr-EES群は10.6%であり、両群間に有意な差はなかった(相対リスク[RR]:1.09、95%信頼区間[CI]:0.89~1.34、p=0.38)。
デバイス指向複合エンドポイントは、BVS群の6.6%、CoCr-EES群の5.2%に発生したが、やはり有意差はみられなかった(RR:1.22、95%CI:0.91~1.64、p=0.17)。
標的血管関連心筋梗塞は、BVS群が5.1%と、CoCr-EES群の3.3%に比べ有意に高頻度であった(RR:1.45、95%CI:1.02~2.07、p=0.04)。これには、BVS群で、有意差はないものの周術期心筋梗塞が多く、デバイス血栓症(definite/probable)の頻度も高い傾向にあったこと(RR:2.09、95%CI:0.92~4.75、p=0.08)が寄与している可能性がある。
全死因死亡(p=0.80)、心臓死(p=0.74)、全心筋梗塞(p=0.08)、虚血による標的病変再血行再建術(p=0.56)、全再血行再建術(p=0.89)のいずれもが、両群間に差を認めなかった。
これらの結果は、ベースラインの背景因子の不均衡を多変量で補正しても同様であり、ほとんどのサブグループで一貫していた。
また、これら4試験に、フォローアップ期間が1年に満たない2つの試験(EVERBIO II[9ヵ月]、TROFI II[6ヵ月、ST上昇心筋梗塞患者のみ登録])のデータを加えて事後的な感度分析を行ったが、治療効果に変化はなかった。
著者は、「BVSの1年後の患者指向およびデバイス指向の有害事象の発現状況は、CoCr-EESと変わらなかった」とまとめ、「第1世代のBVSは、多くの施術者がいまだ最適な留置術の方法を学んでいる最中で、CoCr-EESはステント血栓症が最も少ない薬剤溶出金属製ステントであることから、本研究のエビデンスは全体として、BVSの留置1年後の安全性と有効性を支持するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)