虫垂炎の治療では、抗菌薬治療の効果は虫垂切除術に対し非劣性であるが、抗菌薬治療を受けた患者10例当たり約3例(29%)が90日後までに虫垂切除術を受けており、虫垂結石を有する患者は虫垂切除術や合併症のリスクが高いことが、米国・ワシントン大学のDavid R. Flum氏らが実施した「CODA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年10月5日号に掲載された。60年以上も前(1956年)に、虫垂炎治療における虫垂切除術の代替治療として抗菌薬治療の有効性が報告されているが、長期にわたり虫垂炎の標準治療は虫垂切除術とされてきた。また、虫垂炎の抗菌薬治療の無作為化試験がいくつか行われているが、重要なサブグループ(とくに、合併症のリスクが高いとされる虫垂結石の患者)の除外や、少ない患者数などから、その使用は限定的であった。
米国の10施設が参加した実践的な無作為化非劣性試験
研究グループは、虫垂炎の治療における、抗菌薬治療の虫垂切除術に対する非劣性を検証する目的で、米国の10施設が参加した実践的な非盲検無作為化試験を行った(米国・患者中心アウトカム研究所[Patient-Centered Outcomes Research Institute]の助成による)。
対象は、救急診療部で画像検査により虫垂炎と確定された、英語またはスペイン語を話す成人(年齢18歳以上)の患者であった。被験者は、抗菌薬治療を受ける群または虫垂切除術を受ける群に無作為に割り付けられた。抗菌薬群の患者は、少なくとも24時間、抗菌薬を静脈内投与されたのち、錠剤を10日間服用した。
主要アウトカムは、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D)質問票(0~1点、点数が高いほど健康状態が良好、非劣性マージンは0.05点)で評価した30日の時点での健康状態とした。副次アウトカムには、抗菌薬群における90日以内の虫垂切除術や、両群の合併症が含まれた。解析は、虫垂結石の有無別のサブグループで行った。
抗菌薬群で虫垂切除術を受けた患者の41%が虫垂結石
2016年5月~2020年2月の期間に1,552例(414例が虫垂結石を有する患者)が登録され、抗菌薬群に776例(平均年齢38.3±13.4歳、女性37%)、虫垂切除術群にも776例(37.8±13.7歳、37%)が割り付けられた。抗菌薬群の患者の51%が入院で、47%が救急診療部を退院して自宅で、2%は退院して自宅以外で治療を受けた。虫垂切除術群の96%は腹腔鏡による手術を受けた。参加施設の報告による治療のアドヒアランスは、抗菌薬群が90%、虫垂切除術群は99%だった。
30日の時点での平均EQ-5Dスコア(intention-to-treat[ITT]解析)は、抗菌薬群が0.92±0.13点、虫垂切除術群は0.91±0.13点であり、抗菌薬群の虫垂切除術群に対する非劣性が確認された(平均群間差:0.01点、95%信頼区間[CI]:-0.001~0.03)。per-protocol解析(0.01点、-0.002~0.03)および主要アウトカムの欠測値の多重代入法を用いた解析(0.01点、-0.004~0.02)でも、同様の結果が得られた。また、虫垂結石を有する患者(-0.01点、-0.03~0.02)および虫垂結石のない患者(0.02点、0.003~0.03)でも、主要アウトカムの非劣性が示された。
抗菌薬群では、48時間以内に11%、30日までに20%、90日までに29%が虫垂切除術を受けた。90日までに虫垂切除術を受けた患者のうち、虫垂結石を有する患者が41%で、虫垂結石のない患者は25%であった。
合併症の発生率は、抗菌薬群が100例当たり8.1例と、虫垂切除術群の3.5例に比べて多かった(率比:2.28、95%CI:1.30~3.98)。合併症は、虫垂結石を有する患者(100例当たり20.2例vs.3.6例、率比:5.69、95%CI:2.11~15.38)では抗菌薬群で多かったが、虫垂結石のない患者(同3.7例vs.3.5例、1.05、0.45~2.43)では両群間に差はなかった。
重篤な有害事象は、抗菌薬群が100例当たり4.0例で、虫垂切除術群は3.0例で発現した(率比:1.29、95%CI:0.67~2.50)。経皮的ドレナージは、抗菌薬群が虫垂切除術群よりも頻度が高く(100例当たり2.5例vs.0.5例、率比:5.36、95%CI:1.55~18.50)、とくに虫垂結石を有する患者で高頻度であった。また、両群の虫垂切除術を受けた患者に限定した解析では、虫垂穿孔は抗菌薬群で多かった(32% vs.16%)。抗菌薬群全体でみると、虫垂結石を有する患者が虫垂結石のない患者に比べて多かった(61% vs.24%)。
著者は、「これらのデータは、COVID-19の世界的流行中に、患者と医師が個々の患者の特性や嗜好、状況を考慮しつつ、それぞれのアプローチの利点とリスクを比較検討する際に、とくに重要な意味を持つと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)