有酸素運動を習慣的に行うことで、脳の血流が良くなることを示すデータが報告された。研究者らは、このような脳の血流改善効果を介して脳の老化が抑制されるのではないかと述べている。
この研究は、米テキサス大学サウスウエスタン医療センターのRong Zhang氏らによるもので、詳細は「Journal of Applied Physiology」に10月4日掲載された。Zhang氏は、「週に4~5回、1回30分以上の速歩またはジョギングを行うと良い。その運動強度は、会議のスタートに遅れそうで急いでいる時の歩行と同じぐらいであって、息切れを感じるぐらいの強度だ」と解説する。
Zhang氏によると、脳はその機能を維持するために、体全体の血流量の約20%を必要とするが、歳を重ねるとともに脳に血液を送る動脈の加齢に伴う変化のために、脳血流量が減少するという。脳血流量が少ないということは、脳への酸素や栄養素の供給量が不足することを意味し、かつ、脳で発生した老廃物を運び出す力も低下して、脳内に蓄積しがちになる。
一方、習慣的な運動、特に有酸素運動は、心臓などの動脈の加齢変化を抑制することが分かっている。ただし、脳血流量の維持を担う動脈にも同じように作用するか否かは十分明らかになっていない。同氏らは、習慣的に運動を行うことが、脳血流量の維持にも役立つのではないかと考え、60~80歳で重度の疾患のない73人を対象とする、1年間の介入研究を行った。
参加者を無作為に2群に分け、1群は有酸素運動、他の1群は筋力トレーニングとストレッチを行う群とした。有酸素運動群では、介入の前半は1回25~30分のエクササイズを週3回行い、介入後半(26週目以降)は1回30~40分、週4~5回を目指して運動量を徐々に増やした。1年後、頸動脈の血圧や経頭蓋超音波検査による血流速度などの検査の結果、有酸素運動群では有意に脳血流量が増加していることが示された。その一方で、筋力トレーニングとストレッチを続けた群は、そのような変化が認められなかった。
この研究発表に対して、米メイヨー・クリニックの神経内科医で米国神経学会のフェローであるDonn Dexter氏は、「このような脳血流の改善は、脳の健康につながるはずだ」と述べている。同氏によると、運動による認知機能の保護効果を示した過去の研究データは、かなり堅固なものだという。また、今回発表された研究は、運動による脳血流量への影響を1年にわたる介入試験で検討したものだが、「私はこれまでに、このような方法で運動による脳への効果を検討した研究を見たことがなく、興味深い結果だ。このデータは、運動が脳の健康を改善するという仮説をさらに確かなものにする」と同氏は語っている。
現在の米国のガイドラインでは、成人に対して少なくとも週に150分の中強度運動を行うことを推奨している。これについてDexter氏は、「1週間に150分という目標設定は、ややわかりにくいのではないか。私は患者に対して『毎日30分』と説明している。それなら運動できない日が週に1日、2日あったとしても、週当たり150分に到達する」と話している。
一方、Zhang氏は、今回の研究対象が60~80歳であったことから、「運動の恩恵はあらゆる年齢の人が受けられる。スタートが遅過ぎることはない」と話す。また、「これまでの研究から、心臓に良いことは脳にも良いことが示唆されている。この点が、われわれが人々に理解してほしいメッセージだ」と同氏は述べている。ただし同氏は、「だからといって、無理をしなければならないと感じる必要はない」とも付け加えている。「マラソンを完走するためにトレーニングする人のように極端な運動を続けていれば、推奨されている運動量に比べてさらに多くのメリットを得られることを示すエビデンスを、私は見たことがない」とのことだ。
[2022年11月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら