ガーデニングの経験者なら、土を掘って種をまく喜びや、最初の収穫時の誇らしい気持ちを理解できるはずだ。それに加えて、ガーデニングは健康にも良い影響を与えるようだ。新たな研究で、都市部のコミュニティガーデン(地域住民が運営や管理を担う庭)の存在は、住民の新鮮な食品の摂取量や運動量の増加をもたらす一方で、ストレスや不安を軽減する可能性のあることが示されたのだ。米コロラド大学ボルダー校環境学部教授のJill Litt氏らが実施したこの研究結果は、「The Lancet Planetary Health」1月4日号に掲載された。
Litt氏によると、今回の研究は、米コロラド州デンバー市でコミュニティガーデンを運営するデンバー・アーバン・ガーデンズからの提案が発端であったという。Litt氏は、「コミュニティガーデンは、私の心を捉えた。人々の行動変容が起こるさまを実際に目にすることができる、最も魅力的なシステムだった」と振り返る。なお、同市内のコミュニティガーデンの数は、当初はわずか40カ所だったが、現在では180カ所に達している。
これまでのコミュニティガーデンに関する研究報告は観察研究に限定されていたが、今回はランダム化比較試験(RCT)でコミュニティガーデンの影響を評価した。そのためにLitt氏らは、過去2年間のガーデニング経験がない18歳以上の成人291人を試験参加者として登録した。試験参加者の平均年齢は41.5歳で、女性が82%を、ヒスパニック系が3分の1以上(34%)を占めていた。
RCTでは、参加者の約半数(146人)にはコミュニティガーデンへの参加を1年間待つように伝え(対照群)、残る約半数(145人)には無料でコミュニティガーデンの1区画(平均10m2)を割り当て、種や苗を提供し、デンバー・アーバン・ガーデンズの入門コースに参加する機会を用意した(ガーデニング群)。また、身体活動量を測定するための加速度計を全参加者に提供した。さらに、試験開始時の春(4月〜6月上旬)、秋(8月下旬〜10月)、および冬(1〜3月)の3時点で、栄養摂取状況やメンタルヘルス、BMIや腹囲などの身体測定値に関する調査を全参加者に実施した。
その結果、介入群では食物繊維の摂取量の有意な増加が認められた。秋の時点での1日当たりの食物繊維の摂取量は、対照群の20.07gに対してガーデニング群では21.48gであり、ガーデニング群の方が平均で約1.4g多かった(約7%の増加)。食物繊維は、代謝や腸内細菌叢、糖尿病やがんなどの慢性疾患の発症リスクに関与する炎症や免疫反応に影響を及ぼすとされている。医師らは、1日に約25~38gの食物繊維の摂取を推奨しているが、ほとんどの人がそれを大幅に下回る量しか摂取していない。一方、果物と野菜の摂取量については、両群間に有意差は認められなかった。
また、介入群では、中等度から高強度の運動量にも有意な増加が認められた。秋の時点での1日当たりの運動量は、対照群で49.12分だったのに対して、ガーデニング群では54.92分で、後者で5.80分多かった。さらに、秋の時点でガーデニング群では不安やストレスの程度が低く、社会的つながりが向上していた。
こうした結果を受けてLitt氏は、「われわれは、人々が他者とつながり、人間関係を築いているさまを目の当たりにした。また、全員が共通の活動を通してつながっていることは、その活動への関心を高め、活動に関わり続ける力になった」と考察。その上で、「コミュニティガーデンには健康上のベネフィットもあることが今回の研究で示された」と付け加えている。
一方、ガーデニングが健康に与える影響について研究している米オハイオ州立大学のColleen Spees氏は、ガーデニングの価値として健康的な食品を入手できること、自然の中に身を置く経験ができることの2点を挙げている。同氏は、「カオスともいえる日常生活から離れることで心の平穏がもたらされ、不安やストレスが軽減される」と説明。また、「ガーデニングあるいは植物性食品を中心とした食生活が、精神的および身体的な健康に良い影響を与え得るとの知見が蓄積されつつあるが、Litt氏らが実施したRCTによってその有益性を裏付ける知見が増えた」としている。
[2023年1月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら