医療一般|page:23

膵管がんの化学療法抵抗性を逆転させ得る方法とは?

 膵臓がんは特に攻撃的で治療が難しいが、その理由の1つは化学療法に抵抗性を示すことが多いからである。しかし、米スタンフォード大学材料工学分野のSarah Heilshorn氏らが、膵臓がんで化学療法抵抗性が生じる理由と、それを逆転させ得る方法に関する研究結果を、「Nature Materials」に7月4日報告した。この研究によると、がん細胞周囲の組織の物理的な硬さが、化学療法の効果を低下させているのだという。Heilshorn氏は、「膵臓がんの大きな臨床的課題は化学療法抵抗性であるが、本研究結果は、それを克服するための今後の薬剤開発の新しい方向性を示唆するものだ」と述べている。

日本人高齢者におけるスタチン投与量と認知症リスク

 これまでの研究では、スタチンの使用と認知症リスク低下との関連が示唆されているが、とくに超高齢社会である日本においては、この関連性は十分に検討されていない。大阪大学の戈 三玉氏らは、65歳以上の日本人高齢者を対象にスタチン使用と認知症リスクとの関連を調査した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2024年7月1日号の報告。  2014年4月~2020年12月の17自治体におけるレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。年齢、性別、自治体、コホート参加年のデータに基づき、1症例を5対照群とマッチさせた。オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、条件付きロジスティック回帰モデルを用いた。

日本人の進行・転移胸腺腫、ステロイドが有効か

 何らかの前治療歴を有する局所進行または転移を有する胸腺腫患者において、ステロイドが抗腫瘍効果を示す可能性が示された。新潟大学の田中 知宏氏らがRespiratory Investigation誌2024年7月4日号で報告した。  国立がん研究センターにおいて、2010年1月~2021年3月にステロイド単剤(プレドニゾロンまたはデキサメタゾン)による治療を受けた局所進行または転移を有する胸腺腫患者13例を対象として、後ろ向き研究を実施した。評価項目は、奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)などとした。

肥大型心筋症の管理ガイドラインを策定、米ACC、AHA

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が発表した、肥大型心筋症(HCM)患者の管理に関する推奨事項が示された新しい臨床ガイドラインが、「Journal of the American College of Cardiology」に5月8日掲載された。  米メイヨー・クリニックのSteve R. Ommen氏らは、HCMの管理について臨床医を導くための推奨事項を作成するために、包括的な文献レビューを実施した。  その結果、最良の臨床ケアを提供するためには、協働意思決定が必要であることが示された。ケアを最適化するためには、適切な専門知識を有する集学的HCMセンターへの紹介が重要であるが、循環器一次医療チームが評価、治療、長期的ケアを開始することも可能である。ケアの基本には、家族歴の慎重な確認、遺伝的伝達の可能性に関するカウンセリング、遺伝子検査の選択肢が含まれる。管理の重要な要素の一つは、患者の心臓突然死のリスクを評価することである。心臓突然死のリスク因子は、HCMの小児患者と成人患者で重みや構成要素が異なる。症候性閉塞性HCM患者に対しては、現在、心筋ミオシン阻害薬が治療薬として使用可能である。これらの薬剤は、第一選択の薬物療法で十分な症状緩和が得られない患者にとって有益である。運動負荷試験は、運動忍容性を判断する際に有用である。HCMを有していても運動による健康全般への有益な効果が得られることを支持する研究結果が増えている。

日本の大学院生の自殺に関する実態調査

 日本の大学院の自殺に関する20年間の調査データを分析した結果から、男子学生、工学専攻、留年歴があることなどの特徴が、自殺率の高さと関連していることが明らかとなった。また、自殺の動機として多かったのは就職活動の失敗だったという。お茶の水女子大学保健管理センターの丸谷俊之氏らによる研究であり、「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に3月8日掲載された。  大学院生の自殺既遂例に関する研究報告は少ないが、大学院生はさまざまなストレスにさらされており、メンタルヘルスに関する問題を抱えやすいといえる。海外での研究では、指導教員からのプレッシャーや抑うつ症状などが自殺の要因として指摘されている。

月経前症候群は食行動と関連

 日本の女子大学生および大学院生を対象とした横断研究の結果、摂食障害傾向の有無が月経前症候群(premenstrual syndrome;PMS)と関連していることが明らかとなり、BMIの値にかかわらず、食行動がPMS症状に影響を及ぼしている可能性が示唆された。大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科の森野佐芳梨氏らによる研究であり、「BMC Women's Health」に6月7日掲載された。  PMSは、情緒不安定、イライラ、不安、倦怠感、食欲や睡眠の変化、下腹部痛、頭痛、むくみ、乳房の張りなど、さまざまな身体・精神症状を伴い、多くの女性の日常生活に支障をきたしている。PMSは、運動習慣、食事の内容や栄養摂取の状況などと関連することが報告されている。しかし、朝食の欠食、やせ願望、過食といった食行動に関する問題が深刻化している中で、食行動とPMS症状について検討した日本の研究は少ない。

ニボルマブ承認から10年、がん治療はどう変わったか/小野・BMS

 本邦初の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ニボルマブ。2014年7月4日に製造販売承認を取得してから、早くも10年が経過した。ICIによるがん免疫療法は、どれだけ社会に認知されているのだろうか。また、ICIはがん治療においてどのようなインパクトを与えたのだろうか。小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、これらの疑問に答えるべく「免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法のいまとこれから」と題し、2024年7月24日にメディアセミナーを実施した。  小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、がん免疫療法に対する医師・患者さんの現状評価を把握することを目的として、がん治療に関わる医師100人とがん患者さん900人を対象にアンケート調査を実施した。本調査の結果について、高井 信治氏(小野薬品工業 メディカルアフェアーズ統括部長)が紹介した。

免疫不全患者に対するCOVID-19の曝露前発症抑制、sipavibart承認申請/AZ

 アストラゼネカは、2024年7月26日付のプレスリリースで、免疫不全患者に対するCOVID-19の曝露前発症抑制を目的として開発を進めている長時間作用型モノクローナル抗体sipavibartについて、製造販売承認を厚生労働省に申請したと発表した。  本申請は、第III相SUPERNOVA試験の結果に基づく。SUPERNOVA試験は、COVID-19の発症抑制を目的としてsipavibartの安全性および有効性を対照(チキサゲビマブ/シルガビマブまたはプラセボ)と比較評価する大規模な第III相、国際共同、無作為化、二重盲検比較試験であり、免疫不全患者を対象にCOVID-19に対する有効性データを提供する唯一の試験である。本試験は、SARS-CoV-2のすべての変異株によって引き起こされる症候性COVID-19発症の相対リスクの減少、F456L変異を有さないSARS-CoV-2変異株によって引き起こされる症候性COVID-19発症の相対リスクの減少の2つの主要評価項目を達成した。また、本試験では、試験期間中に感染者において複数の異なるSARS-CoV-2変異株が確認されるという、変異株が進化し続ける状況において、sipavibartの潜在的な有用性が示された。

日本女性の平均寿命87.14歳は世界1位、男女とも前年より寿命延長/厚労省

 厚生労働省は、7月26日に令和5年の簡易生命表の概況を発表した。これによると男性の平均寿命は81.09歳、女性の平均寿命は87.14歳となり、3年ぶりに前年を上回った。  前年と比較して男性は0.04年、女は0.05年上回ったほか、平均寿命の男女差は6.05年で前年より0.02年延長した。  65歳の死因別死亡確率(主要死因)について、男性では肺炎6.18%(前年6.13%)、老衰8.85%(前年8.31%)が前年に比べ死亡確率が上昇し、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患は前年に比べ低下した。女性では肺炎4.44%(前年4.34%)、老衰20.77%(前年19.79%)が前年に比べ死亡確率が上昇し、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患は前年に比べ低下した。

うつ病診断歴が双極性障害のアウトカムに及ぼす影響

 双極性障害は、うつ病エピソードから発症することが多く、初期にはうつ病と診断されることが少なくない。杏林大学の櫻井 準氏らは、双極性障害患者における過去のうつ病診断歴が臨床アウトカムに及ぼす影響を調査するため、本研究を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2024年7月2日号の報告。  2005年1月〜2020年10月のJMDCの医療保険請求データを用いて、日本で双極性障害と新たに診断された18〜64歳の患者データを分析した。双極性障害と診断された月を、インデックス月と定義した。過去のうつ病診断歴およびその期間(1年以上、1年未満)により層別化し、精神科入院、すべての原因による入院、死亡率を評価した。ハザード比(HR)、p値の推定には、Cox比例ハザードモデルを用い、潜在的な交絡因子で調整し、ログランク検定によりサポートした。

妊娠・乳幼児期の大気汚染物質の複合曝露が小児喘息と関連

 妊娠期、子どもの乳幼児期における大気汚染物質への曝露と小児喘息の発症との関連が、日本全国のデータを用いて詳細に検討された。その結果、低濃度の大気汚染物質への複合曝露が、持続性小児喘息の発症と関連していることが明らかとなった。昭和大学医学部リウマチ・膠原病内科の城下彰宏氏らによる研究の成果であり、「Ecotoxicology and Environmental Safety」に6月20日掲載された。  小児喘息の発症は、環境的、社会経済的、遺伝的要因の影響を受ける。大気汚染は喘息の発症や悪化と関連するが、大気汚染物質は複雑な混合物である。比較的低濃度の大気汚染物質の複合曝露による影響については十分に研究されておらず、海外と日本では大気汚染の状況も異なり、エビデンスが不足している。

最重症群「IV度」を追加、熱中症診療ガイドライン2024公開

 7月25日、日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会が『熱中症診療ガイドライン2024』を公表した。本ガイドラインの改訂は10年ぶり。本ガイドラインでは熱中症の診療と予防の全般をカバーし、定義・重症度・診断、予防・リスク、冷却法、冷却法以外の治療(補液、DIC治療薬)、小児関連の5分野より24個のClinical Question(CQ)が設定されている。

両側乳房切除と乳がん死亡率/JAMA Oncol

 片側乳がん患者に対する両側乳房切除の乳がん死亡率におけるベネフィットは示されていない。今回、カナダ・Women's College HospitalのVasily Giannakeas氏らによるコホート研究において、両側乳房切除で対側乳がんリスクは有意に低下したが乳がん死亡率は低下しなかったことが報告された。JAMA Oncology誌オンライン版2024年7月25日号に掲載。  このコホート研究では、SEERプログラムの登録データベースから、2000~19年に診断されたStage0~III片側乳がん(浸潤性乳がんおよび非浸潤性乳がん)の女性を同定し、手術の種類(乳房部分切除、片側乳房切除、両側乳房切除)によりマッチングを行い、対側乳がんおよび乳がん死亡率を20年間追跡した。  主な結果は以下のとおり。

重度のBPSDに対する抗精神病薬の投与量の軌跡

 抗精神病薬は、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対し、適応外で使用されることが多いが、これら薬剤の重要な副作用は懸念となる。杏林大学の多田 照生氏らは、重度のBPSDを有する認知症入院患者における抗精神病薬の長期使用状況、時間の経過とともに使用状況がどのように変化するかを調査した。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2024年6月25日号の報告。  2012年10月〜2021年9月の山梨県・日下部記念病院のカルテデータをレトロスペクティブにレビューした。この研究では、認知症診断後、BPSDのために入院し、入院3ヵ月時点で抗精神病薬を使用していた患者を対象とした。抗精神病薬の投与量は、クロルプロマジン等価換算に基づき高用量群(300mg/日以上)、中用量群(100〜300mg/日)、低用量群(100mg/日未満)に分類し、入院15ヵ月までフォローアップを行った。3〜6ヵ月目における投与量の減量と関連する因子を特定するため、二項ロジスティック回帰を用いた。

睡眠時間が乱れている人は糖尿病リスクが高い

 睡眠時間が日によって長かったり短かったりすることが、糖尿病発症リスクの高さと関連があることを示すデータが報告された。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のSina Kianersi氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に7月17日掲載された。論文の筆頭著者であるKianersi氏は、「われわれの研究結果は、2型糖尿病予防のために、睡眠パターンの一貫性を保つことの重要性を表している」と述べている。  この研究には、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータが用いられた。UKバイオバンク参加者のうち、2013~2015年に加速度計の計測データがあり睡眠時間を把握可能で、その時点で糖尿病でなかった8万4,421人(平均年齢62歳、男性43%、白人97%)を2022年5月まで追跡して、睡眠時間の乱れと糖尿病発症リスクとの関連を検討した。睡眠時間の乱れは、7晩連続で計測した睡眠時間の標準偏差(SD)で評価した。

強い骨の形成を促す新しいホルモンを発見

 骨粗鬆症と闘い、骨折を早く治すのに役立つ可能性を秘めたホルモンが、マウスを用いた実験で発見された。それは、CCN3(cellular communication network factor 3)と呼ばれるホルモンで、授乳中の雌マウスの骨量や骨の強度の維持に役立っていることから「母体脳ホルモン(maternal brain hormone)」とも呼ばれている。実験では、CCN3が、年齢や性別にかかわりなく全てのマウスの骨を強化することが確認された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のHolly Ingraham氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に7月10日掲載された。

80歳以上も健康的なライフスタイルでさらなる長寿に

 これまでの研究で、生活習慣因子が寿命や死亡率と関連していることが多数報告されているが、そのほとんどは中高年層(60歳以上)を対象としており、80歳以上を対象とした研究はほとんどない。中国上海市・復旦大学のYaqi Li氏らによる、中国の80歳以上を対象とした、健康的なライフスタイルと100歳以上まで生きる可能性を検討した研究結果がJAMA Network Open誌2024年6月20日号に掲載された。  研究者らは、1998年に設立された80歳以上を対象とした全国的かつ最大規模のデータベース・中国縦断健康長寿調査(Chinese Longitudinal Healthy Longevity Survey:CLHLS)を用いて、地域ベースの前向き対照研究を実施した。2022年12月1日~2024年4月15日のデータを解析した。

統合失調症患者の代謝パラメータに対する非定型抗精神病薬の影響

 3種類の非定型抗精神病薬(オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール)のいずれかを服用している患者と健康対象者の空腹時血清アスプロシン濃度と代謝パラメータを比較するため、イラン・Hamadan University of Medical SciencesのKiumarth Amini氏らは、横断的研究を実施した。Human Psychopharmacology誌オンライン版2024年6月28日号の報告。  対象は、統合失調症成人外来患者62例および年齢、性別が一致した健康対象者22例。患者は、寛解状態にあり、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾールのいずれかの非定型抗精神病薬による単剤治療を6ヵ月以上実施していた。BMI、空腹時血清アスプロシン、グルコース、HbA1c、インスリン、脂質プロファイルを両群間で比較した。さらに、インスリン抵抗性の基準を満たした人(HOMA-IR:2.5超)およびBMIレベルが高い人(男性:27kg/m2超、女性:25kg/m2超)について両群間で比較した。

脳転移/髄膜がん腫症を伴うHER2+乳がんへのT-DXd、長期の有効性を評価(ROSET-BM)/日本乳癌学会

 脳転移や髄膜転移を有するHER2+乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の長期の有効性を検討したわが国のレトロスペクティブチャートレビュー研究であるROSET-BM試験において、前回の発表から追跡期間を1年延長したデータ(データカットオフ:2022月10月31日)を、北海道がんセンターの山本 貢氏が第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。  本試験には2020年5月25日~2021年4月30日にT-DXd治療を開始した患者が登録された。評価項目は、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、治療成功期間(TTF)で、さらにOSと関連する背景因子を探索するために、Cox比例ハザードモデルを用いて単変量解析および多変量解析を実施した。対象は20歳以上の脳転移または髄膜がん腫症(LMC)を有するHER2+乳がん患者で、臨床試験でT-DXd治療を受けた患者は除外した。

顔の表面温度、脂肪肝や生活習慣病のスクリーニングに有用か

 体温とは、細胞機能と生物の生存に影響を与える、つまり健康状態を知るための重要なパラメータであり、老化と寿命にとっても重要な要素である。そこで今回、中国・北京大学のZhengqing Yu氏らは顔の皮膚温を捉えた熱画像(以下、サーマル画像)を用い、老化と代謝疾患の定量的特徴を明らかにすることで、サーマル画像が老化と代謝状態の迅速スクリーニングに有用な可能性を示唆した。Cell Metabolism誌2024年7月2日号掲載の報告。  研究者らは、2020~22年の期間に21〜88歳の成人2,811人(女性:1,339人、男性:1,472人)の顔のサーマル画像を収集し、赤外線サーモグラフィによる顔のメッシュ認識および領域分割アルゴリズムを用いたThermoFaceを開発、自動処理・分析にて生物学的年齢を測定するなどして、サーマル顔画像年齢による疾患予測モデルを生成し、AgeDiff(予測年齢と実年齢の差)と代謝パラメータや睡眠時間との関連を検証した。