日本発エビデンス|page:37

日本人労働者の睡眠負債がプレゼンティズムや心理的苦痛に及ぼす影響

 健康上の問題を抱えながら仕事や業務に携わる状態を表すプレゼンティズム(presenteeism)は、生産性の低下やメンタルヘルスの問題による欠勤のリスク指標である。北海道医療大学の高野 裕太氏らは、睡眠負債、ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)、不眠症状がプレゼンティズムや心理的苦痛に及ぼす影響を調査した。その結果、不眠症状は、睡眠負債や社会的時差ぼけよりも、プレゼンティズムや心理的苦痛に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。プレゼンティズムや心理的苦痛に対し、睡眠負債もまた独立した影響を及ぼしているが、社会的時差ぼけの影響は認められなかった。BioPsychoSocial Medicine誌2022年6月3日号の報告。

日本人双極性障害外来患者の3年間の臨床アウトカムに影響を及ぼす要因~MUSUBI研究

 双極性障害患者の長期的な臨床アウトカムの予測因子に関するエビデンスは限られている。獨協医科大学の菅原 典夫氏らは、日本の精神科クリニックにおける双極性障害の多施設治療調査「MUSUBI研究」に参加した双極性障害患者を対象に、3年間の臨床アウトカムに影響を及ぼす予測因子を特定しようと試みた。その結果、フォローアップ期間中に持続的な寛解が得られる患者は少なく、臨床アウトカムに個々の人口統計学的および臨床的特徴が影響を及ぼしていることが示唆された。Journal of Psychiatric Research誌2022年7月号の報告。

トリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブとトリフルリジン・チピラシル単剤の比較/ASCO2022

 転移のある大腸がん(mCRC)に対するトリフルリジン・チピラシルと抗VEGF抗体ベバシズマブの併用療法(FTD/TPI+BEV)は、トリフルリジン・チピラシル単剤療法(FTD/TPI)に比べて優れた有用性を認めるが、好中球減少症のリスクが高いことがメタ解析の結果から示された。国立がん研究センター東病院の吉野 孝之氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2022)で報告した。  トリフルリジン・チピラシル単剤療法は、難治性のmCRCに対する標準治療として広く普及している。一方で、トリフルリジン・チピラシルと抗VEGF抗体ベバシズマブの併用療法については、難治性mCRC患者を対象とした第I相および第II相試験においてその有用性と忍容性が示されている。しかし、トリフルリジン・チピラシル単剤療法とトリフルリジン・チピラシルと抗VEGF抗体ベバシズマブの併用療法を直接した臨床研究はほとんどない。本検討では、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryから検索した875文献から、PRISMフローチャートを用いて29の文献(RCT:5文献、非RCT:11文献、前向き観察研究:10文献を含む)を抽出してメタ解析を行い、両治療法の有効性と安全性について評価した。

PC使用や自動車運転と認知症リスク~プロスペクティブ研究

 座りがちな行動は、高齢者の認知症リスクと関連しているといわれている。東北大学の竹内 光氏らは、自動車運転やコンピューターの使用が、高齢者の認知症リスクと関連しているかを調査した。その結果、座りがちな行動の種類により将来の認知症リスクは異なり、単純に座っている時間のみで評価するのではなく、さまざまな要因を考慮する必要があることを報告した。Frontiers in Aging Neuroscience誌2022年5月16日号の報告。  対象は欧州の中高年成人を含む縦断的コホート研究の参加者のうち、ベースライン(2006~10年)より5年前に認知症と診断されておらず、ベースラインから5年以内に死亡していなかった人で、2018年までフォローアップし分析した。交絡因子で補正した後、ベースラインで質問票より得られた自動車運転時間および非職業的コンピューター使用時間と、5年後の認知症発症との関連を分析した。自動車運転およびコンピューター使用の時間により、4群(A群:0時間/日、B群:1時間未満/日、1時間/日、C群:2時間/日、3時間/日、D群:4時間以上/日)に分類した。分析にはCox比例ハザードモデルを用いた。

HER2陽性の胆道がんにT-DXdが有効性示す(HERB)/ASCO2022

 HER2陽性の切除不能または再発の胆道がん(BTC)に対する抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の有効性が日本で行われた医師主導第II相試験であるHERB試験で示された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)において、国立がん研究センター中央病院の大場 彬博氏が同試験の初回解析結果を発表した。 ・対象:ゲムシタビンを含むレジメンに抵抗性のHER2陽性または弱陽性切除不能・再発BTC (HER2陽性:IHC 3+またはIHC 2+/ISH+と定義し、HER2弱陽性:IHC 0/ISH+、IHC 1+/ISH-、IHC 1+/ISH+、IHC 2+/ISH-のいずれか) ・介入:T-DXd 5.4mg/kg 3週間ごと病勢進行まで投与

12~18歳の新型コロナワクチン有害事象、女子に高リスク傾向/日本化学療法学会

 現在、12~18歳の約75%が新型コロナウイルスワクチンの2回接種を終えているという。この年齢層での新型コロナウイルスワクチンの有害事象の調査結果について、大阪医科薬科大学の小川 拓氏が、2022年6月3日~5日に開催された第70回日本化学療法学会総会にて発表した。  ワクチン接種による有害事象は12~18歳も成人データと大きく変わらない 本研究では、中学校・高等学校の生徒のうち、新型コロナウイルスワクチンの接種を、希望者469人に対して、2021年9月25日~10月28日に職域接種として行った。1回目はすべてモデルナ製ワクチン(0.1mg)であったが、若年男性に心筋炎・心膜炎のリスクがあることが厚生労働省から発表されたことを受け、2回目は男子に限りモデルナ製に加え、ファイザー製ワクチン(0.225mg)も選択可能とした。男子108人(うち2回目ファイザー製72人)、女子44人の計152人が研究に参加した。被験者に、新型コロナウイルスワクチンの有害事象でよく見られる症状を記載したアンケート形式の健康観察票に、2週間分を記録してもらった。

日本人乳がん患者におけるワクチン接種後の中和抗体価/ASCO2022

 日本人乳がん患者における新型コロナワクチン2回接種後の中和抗体価が調べられ、95.3%と高い抗体陽転化率が示されたものの、治療ごとにみると化学療法とCDK4/6阻害薬治療中の患者で中和抗体価の低下が示唆された。名古屋市立大学の寺田 満雄氏らによる多施設共同前向き観察研究の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)で発表された。 ・対象:2021年5~11月にSARS-CoV-2ワクチン接種予定の乳がん患者(Stage 0~IV) ・試験群と評価法:がん治療法ごとに5群に分け(無治療、内分泌療法、CDK4/6阻害薬、化学療法、抗HER2療法)、最初のワクチン接種前と2回目ワクチン接種後(4週後)に血清サンプルを採取、ELISA法で血清中IgG濃度および各変異株に対する中和抗体価を評価した。

日本食の死亡率や認知症リスクへの影響~大崎コホート研究

 長寿国である日本。その要因として日本人の食生活が影響しているといわれている。しかし、日本食の健康に対するベネフィットは、十分に解明されていない。2007年、宮城県大崎市の日本人住民を対象とした大崎コホート研究において、日本食パターンと心血管疾患による死亡率との関連が世界で初めて発表された。以来、本報告の著者らは、日本食パターンと健康への影響に関するエビデンスを蓄積するため、日本食インデックス(JDI)を開発し、日本食の健康への影響について検討を行ってきた。東北大学の松山 紗奈江氏らは、これまでの6報の論文をレビューし、日本食の健康への影響および将来の研究への影響について議論を深めるため本報告を行った。その結果、日本食パターンを高率で実践している人では、死亡率だけでなく、機能障害や認知症リスクの減少も認められることが確認された。Nutrients誌2022年5月12日号の報告。

日本における統合失調症に対する抗コリン薬使用の特徴

 統合失調症のさまざまな臨床ガイドラインにおいて、抗コリン薬の長期使用は推奨されていない。福岡大学の堀 輝氏らは、向精神薬使用のパターンおよび病院間での違いを考慮したうえで、統合失調症患者に対する抗コリン薬使用の特徴について、調査を行った。その結果、抗精神病薬の高用量および多剤併用、第1世代抗精神病薬の使用に加え、病院の特性が抗コリン薬の使用に影響を及ぼすことが示唆された。Frontiers in Psychiatry誌2022年5月17日号の報告。  日本の医療機関69施設の統合失調症患者2,027例を対象に、退院時治療薬に関する横断的レトロスペクティブ調査を実施。抗コリン薬と向精神薬使用との関連を調査した。各病院を抗コリン薬の処方率に応じて、低、中、高の3グループに分類し、抗コリン薬処方率と抗精神病薬使用との関連を分析した。

中等症コロナ肺炎、ファビピラビル+カモスタット+シクレソニドで入院期間短縮/国内第III相試験

 中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、ファビピラビル、カモスタット、シクレソニド吸入剤による併用治療により入院期間を短縮したことが、単施設非盲検無作為化比較試験で示された。国際医療福祉大学成田病院の寺田 二郎氏らが、Lancet Discovery ScienceのeClinicalMedicine誌オンライン版2022年6月3日号で報告した。  本試験は、COVID-19肺炎患者の重症化抑制に関するファビピラビル+カモスタット+シクレソニド吸入剤の多剤併用療法の有効性を検討する第III相試験である。国による予防接種推進前である2020年11月11日~2021年5月31日に、国際医療福祉大学成田病院において参加者を登録し、ファビピラビル単剤治療群とファビピラビル+カモスタット+シクレソニド吸入剤の多剤併用治療群に無作為に割り付けた。主要評価項目は入院期間。本試験はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)助成によるもの。

COVID-19パンデミックによる日本人医学生の座位行動とうつ病との関連

 2019年に発生したCOVID-19により人々の行動が変化し、座りがちな行動の割合が増え、うつ病の増加につながっていることが示唆されている。医学生におけるこのような影響は、今後の医療提供体制に負の作用をもたらす可能性がある。広島大学の田城 翼氏らは、日本人医学生を対象にCOVID-19パンデミック中の座位行動とうつ病との関連を調査した。その結果、COVID-19パンデミック下の日本人医学生のうつ病リスクを減少させるためには、座位時間および余暇でのスクリーンタイムの減少が有効である可能性が示唆された。著者らは、これらの結果に基づき、うつ病の予防や治療を行うための適切な介入の開発が求められると報告している。BMC Psychiatry誌2022年5月20日号の報告。

モデルナアームが発現しやすい人は?/自衛隊中央病院

 モデルナ社の新型コロナワクチン(mRNA-1273ワクチン、商品名:スパイクバックス筋注)接種により一時期話題となった「モデルナアーム」。このモデルナアームの原因が遅発性大型局所反応(DLLR:delayed large local reaction)と言われるも詳細は不明であった。しかし、今回、自衛隊中央病院皮膚科の東野 俊英氏らはDLLRがIV型アレルギーを原因として生じるアレルギー性接触皮膚炎に類似している可能性があること、女性は男性より5.3倍も発症しやすいことなどを突き止めた。このようにモデルナアームの原因や発症しやすい対象者が特定できれば、今後、この副反応を回避する対応ができそうだ。本研究はJAMA Dermatology誌オンライン版2022年6月1日号に掲載されたほか、自衛隊中央病院のホームページでも報告している。

母親の育児ストレスと子供のADHDとの関連~日本の出生コホート研究

 注意欠如多動症(ADHD)は幼児期に発症し、その後、生涯にわたり影響を及ぼす疾患であるが、早期診断や介入により、臨床アウトカムの最適化を図ることができる。長期的または過度な育児ストレスは、ADHDなどの発達障害に先行してみられる乳児の行動の差異に影響している可能性があることから、幼少期の定期的評価には潜在的な価値があると考えられる。東京都医学総合研究所の遠藤 香織氏らは、母親の育児ストレスが子供のADHDリスクのマーカーとして利用可能かを明らかにするため、出産後1~36ヵ月間の母親の育児ストレスとその子供の青年期初期におけるADHDとの関連について、定期的に収集した自己報告を用いて調査を行った。その結果、出産後9~10ヵ月、18ヵ月、36ヵ月での育児ストレスと12歳時点での子供のADHD症状との関連が認められ、自己報告による育児ストレスのデータはADHDリスクの初期指標として有用である可能性が示唆された。このことから著者らは、ADHDの早期発見と介入を促進するためにも、幼少期の健康診断、育児ストレスの評価、家族のニーズに合わせた支援を行う必要があることを報告している。Frontiers in Psychiatry誌2022年4月28日号の報告。

統合失調症患者のクロザピン中止後の臨床アウトカム~システマティックレビュー

 治療抵抗性統合失調症に対するクロザピン治療は、ゴールデンスタンダードである。しかし、クロザピン治療でも約60%の患者は治療反応が得られず、クロザピン治療中止後の臨床アウトカムについては明らかになっていない。東京・大泉病院の三浦 元太郎氏らは、クロザピン治療中止後のアウトカムを明らかにするため、システマティックレビューを実施した。その結果、クロザピン治療中止後に臨床アウトカムは悪化しており、その後の治療として、クロザピン再投与やオランザピン治療が検討されていることを報告した。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2022年5月5日号の報告。

日本人統合失調症患者におけるQOLと臨床的要因の関係

 徳島・城南病院のYoshimune Ishii氏らは、統合失調症入院患者におけるQOLと臨床的要因の関係を明らかにするため検討を行った。その結果、抑うつ症状の治療が統合失調症入院患者の主観的QOLの改善に影響を及ぼす可能性が示唆された。The Journal of Medical Investigation誌2022年1.2号の報告。  対象は、統合失調症入院患者50例(平均年齢:56.48±11.93歳)。主観的QOLの評価には、統合失調症QOL尺度日本語版(JSQLS)および主観的ウェルビーイング評価尺度短縮版-日本語版(SWNS-J)を用い、認知機能の評価には、ミニメンタルステート検査(MMSE)-日本語版を用いた。うつ症状の重症度、精神症状、薬物誘発性錐体外路症状の評価には、それぞれ、カルガリー統合失調症用抑うつ症状評価尺度日本語版(JCDSS)、簡易精神症状評価尺度(BPRS)、薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)を用いた。JSQLSおよびSWNS-Jに影響を及ぼす因子を特定するため、段階的回帰分析を実施した。

アルツハイマー病の脆弱性と出生した季節との関係

 愛知・国立長寿医療研究センターの安野 史彦氏らは、高齢のアルツハイマー病(AD)患者において、患者の出生した季節がADの病理学的脆弱性に及ぼす影響を評価するためPETを用いた検討を行った。その結果、秋冬に出生した人は、春夏に出生した人と比較し、タウ蓄積が少ないことが明らかとなった。これは、秋冬に出生した人のタウ病理に対する脆弱性を示唆しており、寒い季節関連のリスク因子による周産期または出生後の脳損傷が影響している可能性があるという。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年4月26日号の報告。

2018年西日本豪雨がベンゾジアゼピン使用に及ぼした影響

 自然災害は、メンタルヘルスに重大な影響を及ぼす。2018年7月の西日本豪雨は、日本で発生した最大級の洪水災害の1つである。広島大学の岡崎 悠治氏らは、災害前後のベンゾジアゼピン処方の変化について評価を行った。その結果、被災者における災害後のベンゾジアゼピン処方率が上昇し、その影響は1年以上継続していたことを報告した。Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology誌オンライン版2022年4月26日号の報告。  西日本豪雨による洪水被災地における、2017年7月~2019年6月のレセプト情報データベースに基づき、レトロスペクティブコホート研究を実施した。被災地域住民を、地方自治体の認定により被災者と非被災者に分類した。次に、災害前のベンゾジアゼピン使用状況に基づき、非使用者、頓服使用者、継続使用者の3群に分類した。災害前後のベンゾジアゼピン処方状況を比較し、被災地域住民における災害の影響を推定するため、ロジスティック回帰モデルを用いた差分の差分法(DID)分析を実施した。

統合失調症に対するメタ認知トレーニングの有効性

 メタ認知トレーニング(MCT)は、統合失調症患者の精神症状や認知バイアスを改善するためのグループプログラムであるが、入院中の回復初期段階の統合失調症患者への介入効果は、あまりわかっていない。長野県・千曲荘病院の芳賀 彩織氏らは、日本の精神科救急病棟に入院している統合失調症患者の回復初期段階におけるMCTの有効性を調査した。その結果、MCTは精神症状、自己内省の不良、再入院の予防に有効である可能性が示唆された。Frontiers in Psychology誌2022年4月11日号の報告。

国内での新型コロナワクチンの有効性~多施設共同研究/日本感染症学会

 新型コロナウイルス感染症の発症予防における新型コロナワクチンの有効性を、全国の医療機関において検査陰性デザインを用いた症例対照研究を行い(VERSUS study [Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2])、国内においても海外で報告されたものとほぼ同等の有効性が認められた。4月22~23日にオンラインで開催された第96回日本感染症学会総会・学術講演会で、長崎大学の前田 遥氏が発表した。なお、本発表に含まれるデルタ株流行期の結果については、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2022年4月19日号2)にも掲載されている。

日本人高齢者における野菜・果物の摂取と認知症リスク~久山町研究

 これまで、欧米で行われていたプロスペクティブ研究では、野菜や果物の摂取が認知症リスクを低下させることが示唆されている。しかし、アジア人を対象とした疫学的なエビデンスは限られていた。九州大学の木村 安美氏らは、日本人コミュニティにおける野菜や果物およびそれらの栄養素の摂取と認知症発症リスクと認知症サブタイプとの関連について調査を行った。その結果、野菜とその構成栄養素の摂取量が多いほど、日本人高齢者の認知症リスクが低下することを報告した。BMC Geriatrics誌2022年3月28日号の報告。