子どもはなぜあんなにも早く新しい知識やスキルを習得できるのかと疑問に思ったことはないだろうか。新たな研究で、子どもが新しい情報を処理し、脳内でその情報を学習して蓄積する上でGABA(Gamma Amino Butyric Acid、γ-アミノ酪酸)と呼ばれる脳内の神経伝達物質が非常に重要な役割を果たしていることが示唆された。米ブラウン大学認知言語心理学部教授の渡邊武郎氏らが実施したこの研究の詳細は、「Current Biology」に11月15日掲載された。
効率よく学ぶには、新たに学んだことが脳で迅速に固定化され、その後に学んだものの影響を受けずに保持される必要がある。成人を対象にした研究では、精神を安定させる抑制性の神経伝達物質であるGABAが、新しく学んだ情報の固定化に重要な役割を果たしていることが報告されている。しかし別の研究では、子どもでのGABAによる抑制作用は大人に比べると未成熟であることが示されている。それにもかかわらず、子どもの方が大人よりも効率よく学習できるのはなぜなのか。
このことを調べるために渡邊氏らは、小学生13人(8〜11歳)と成人14人(18〜35歳)を対象に、機能的磁気共鳴スペクトロスコピー(fMRS)を用いて、知覚学習の実施前、実施中、実施後の初期視覚野のGABA濃度を測定し、比較した。
その結果、学習実施前の子どものGABAの全体的な濃度は成人よりも低かったが、学習中に急激に濃度が上昇し、それが学習後も維持されていることが明らかになった。これに対して、大人のGABA濃度に学習の前後で変化は認められなかった。このことから、子どもでは新たな情報を学ぶとGABA濃度が急激に上昇し、その作用により学んだ内容が迅速に固定化されるものと推測された。
渡邊氏らはこの推測の正しさを確認するために、別の被験者(子どもと成人がともに14人ずつ)を対象に、10分の間隔を挟んで同様の学習を2回行い、翌日に学習内容のテストを行うという行動実験を行った。その結果、同氏らの推測通り、子どもは逆行干渉(逆行抑制)に対抗する力を迅速に身に付けることが示された。逆行干渉とは、すでに学習した内容がその後に学習した内容に妨害されて再現されにくくなることを意味する。これに対して成人では、2回目の学習内容のみを正しく覚えており、逆行干渉が生じていることがうかがわれた。
論文の筆頭著者であるレーゲンスブルク大学(ドイツ)のSebastian M. Frank氏は、「後に実施した行動実験では、子どもの方が大人よりもはるかに速く学習内容を固定化できることが示された。これは、学習能力の点では子どもは大人を上回るという一般的な通念に合致する結果だ。今回の研究で得られた結果は、子どもたちが効率よく学ぶ上でGABAが重要な役割を果たしていることを示している」と話す。
研究グループは、「これらの結果は、教師や親が子どもたちに新しいスキルを習得する機会を多く与えるべきことを奨励するものだ」と述べる。渡邊氏は、「子どもの脳は、まだ完全に成熟していないため、行動機能や認知機能の多くは大人ほど効率的ではなく、たいていの能力は大人には及ばない。だが、少なくとも知覚学習などの一部の分野では、子どもの能力の方が優れている」と話している。
[2022年11月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら